一度は消えた恋ですが、あなたの愛を取り戻しました



三軒ほど先の角を曲がって姿を見せた女学生が、匡たちが車を止めている方向に向かって坂道を登ってきつつある。
彼女は優美なデザインの制服に似合わない、大きなショッピングバッグをふたつも抱えているのだ。

ただ、ひだのスカートから覗く足はスラリとしていて美しい。
黒髪は耳の下あたりで切りそろえていて、ほっそりとした頬から顎のラインがよく見えた。

(ああ、あの子だ)

姿がはっきり見えてきてようやく匡は納得した。
秋に見かけたときより髪は短くなっているが、紗羽に間違いない。
キュッと唇を結んでいるのは荷物が重いせいだろうか。

近所の顔見知りと出会ったのか、小柄な老女と会話している。
彼女が少し微笑んだのが車の中からでもよくわかった。
楽しい話ならよかったと、つい匡は思ってしまった。
調査書だけでも彼女の周りは信じられないくらい劣悪な環境なのだ。

会釈して老女と別れた後、紗羽は屋敷の中に入っていった。

「いきなり訪ねてみますか?」
「さあ、どうするかな」

匡はニヤリと唇を少し歪めて考え始めた。


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