一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


「……いかがなさいますか?」

山根も匡の真意を計りかねているようだ。

「そうだな……いきなり訪ねても、玄関先で追い払われる確率が高いな」
「ご冗談を」

天下のモリスエ・エレクトロニクス社長に対して、そんな無礼をするとも思えない。

「しかし、手紙にあったように家政婦代わりとして扱われているのは本当のようだ」
「有名な進学校の制服を着て、ショッピングバックですから……若いお嬢さんにはお辛いでしょうに」

清水副社長からの情報や家政婦の手紙で紗羽の現状を知ってから、匡も調査を依頼していた。
信頼できる調査会社によると、小椋電子はやはり経営コンサルタントに騙されて悲惨な状態だった。
無謀な海外投資もしたようで、原資には紗羽が受け取るべき財産が使われていた。
これで小椋孝二は後見人として不適格と見なされるだろう。
それに屋敷では、紗羽が虐待ともいえる扱いを受けているとの報告も上がってきていた。
近所の噂や紗羽の毎日の行動を調べさせたら、すぐに裏が取れたのだ。

匡が山根と相談を始めてすぐに、さっき屋敷に入ったばかりの紗羽が制服のまま門を出てきた。
なんだか急いでいるように見える。

「どうしたんでしょう?」

紗羽が屋敷を出て坂道を下っていく様子を目で追っていたら、猛スピードで走る車の音が聞こえてきた。
紗羽が角を曲がろうかという時に、急ブレーキ音がした。
匡は冷や汗が背を流れるのを感じた。

(まさか、あの子までが事故に?)

慌てて車から降りて、紗羽の方へと急いだ。









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