【短編】地味男が同居したら溺甘オオカミになりました。
『今日一緒に出張に行く上司のマンションが隣の部屋の火事に巻き込まれたらしいんだ。幸いケガをした人はいなかったし、上司の部屋もそれほど燃えたりはしなかったらしいんだが……』

 それでも消火する過程でかなり水浸しになり、とても住める状態じゃないということらしい。

『奥さんは丁度友人と海外旅行中でいないし、上司も今回の出張では絶対に必要な人なんだ。戻るわけにはいかなくてなぁ……』

 それで一人残してしまう息子をどうするか困っていたので、お父さんが家に泊ればいいと提案したそうだ。


「息子ってことは男でしょう⁉ 娘一人しかいない家に普通泊まらせる⁉」

 信じられなくて叫んだけれど、逆に『だからだよ』と返ってきた。

『年頃の娘が一週間も家に一人でいるんだ。何かあったらと心配にもなるだろう?』
「そ、それは……」

 お父さんの言いたいことも分かる。
 万が一強盗とかに押し入られたら私にはどうしようもない。
 父親としては心配にもなるんだろう。

『それに彼なら大丈夫だろう。一度会ったことがあるけど、感じのいい子だったし』

「……それ、誰なの?」

 完全に納得したわけじゃないけれど、泊まる場所がないという同級生をほっぽり出すのも気が引ける。
 それにお父さんの話し方だともう決定してしまってるみたいだし……。

 せめてある程度面識があって、嫌な人じゃなければ良いなぁなんて思いながらお父さんの言葉を待った。


『ああ、名前を行ってなかったな。その子の名前は――』

「……え?」

 その名前を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。



 ――小一時間後。

「……ごめん、お邪魔します」

「う、ううん。大変だったみたいだね? 気にせず上がって」

 気まずい思いを出来る限り隠しながら、私は数時間前にも会っていた村城唯人くんを家に入れたのだった。
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