俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました
ナオはお金も数千円しかもっておらず、ここで働かせてくれたらタクシー代も宿代も払うからと言って、普段はなにをしている人なのか、保護者はいないのか、なぜここに来たのかわからない。


ロビーのソファから動かないナオに、フロントの裏で対策をねる。


「誰もが働きやすい環境を目指してはいるけれど、家出少女の駆け込み寺ではないんだよなぁ」


口を割らない彼女に、手詰まりになる。



もしかしたら探している人がいるかもしれないし、朝まで警察への連絡を見送ることは出来ない。

少し顔色が悪いのと、定期的にお腹をさするのが気になっていた。

顰め面で、お饅頭をちびちびと食べている。すでに五つ目。小ぶりなものとはいえ、随分と食べる。

お腹がすいているのならと出してあげたおにぎりにはなぜか手をつけない。眉間に皺を寄せて、遠くへ避けてしまった。
お茶も飲まず、鞄から取り出したのはレモンフレーバーの炭酸水。

そこで妙な閃きがあった。
経験者の勘。あれは、食べつわりじゃないだろうか。



「……もしかして、あの子妊娠してないかな」

「え?」

「妊娠して、ひとりでも生みたいから、ここに来たんじゃないかな」


音夜は、はっとしてナオを見る。

彼女はソワソワしながらも、しきりにお腹を抱いていた。


美夜は四年前の自分を思いだした。
初めて女将に声を掛けて貰ったとき、名前だった。
馴れ馴れしいわけでもなく、親しみを込めて呼んでくれたことに、泣けてくるほど安心したのを覚えていた。

俯く彼女に視線を合わせてしゃがむ。


「ナオちゃん」


彼女は頑なで、幼稚だ。
世間知らずだけれど、そんな彼女を突き動かした強さは、守るものがあるからじゃないだろうか。
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