忘れさせ屋のドロップス

差し出されたホットコーヒーを俺は見つめながら、さっきの有桜を思い出していた。

「遥……、有桜ちゃんだけど、検査結果でたから一応伝えるけどね、どこも異常は、なかった。過呼吸を起こして、一時的に脳貧血で倒れてしまっただけで、点滴もしたから、身体的には大丈夫だから」


「良かった」

「大丈夫?遥?」

姉貴が俺の掌を包んだ。

「……怖かった」
 
勝手に震える身体を姉貴が片手で抱き寄せた。  

「そうだね、……怖かったよね。でもね、……有桜ちゃんは、どこも悪くないから。……心臓も勿論大丈夫」 

俺は頷いた。心底ほっとした。少なくとも有桜が俺を置いて何処にもいかないことに。


「有桜、入院しなくて大丈夫?」

「大丈夫だよ、ただ暫くは家事させずに、家でゆっくりさせてあげて。……脳の中も混乱してるだろうし」 

「……分かった」

暫く俺の背中を摩っていた姉貴が、俺を覗き込むようにしながら、口を開いた。  

 
「遥のこと……全く覚えて、なかった?」

「名前も、わかんないみたいだし、俺とは初めて会ったって、そう言ってた」


ーーーードロップスの副作用だ。


ドロップスの副作用で、有桜は全部忘れたんだ。俺の名前も、俺のことも、一緒に暮らしたことも、毎日一緒に眠ったことも。全て。

「俺のせいだ……俺が有桜の心に負担かけてたから、だからアイツの心のキャパが溢れて、心が壊れかけたんだ……俺のこと忘れてしまう位……」 


姉貴が煙草に火をつけると、深く煙を吐き出した。
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