忘れさせ屋のドロップス

「帰んないよ。俺はあっちのソファーで寝るから」

指差しされた目線の先には、見慣れた茶色のソファーが置いてある。

「あの、……渚さんはいつ帰ってくるの?」

「何で?」

「あの……私……ひとりぼっちじゃ……眠れないから」

ドアノブに手を掛けていた遥は、私の方をむいて後ろ手に扉を閉めた。

「あっそ。……じゃあさ……俺、ベット下に居るから。これで、ひとりじゃないだろ?早く寝ろよな」

「え!いや、あの、そんな事……」

ベッドの下にはラグがひいてある。でも、寝室に男の人と二人きりなんて……。

渚さんの弟だし、こんな綺麗な顔した男 の人がわざわざ私を襲うわけないし。

でも考えてたら心臓がなぜだか跳ね上がる。ベットの壁ギリギリまで身を寄せた私を見て、遥が呆れたように笑った。


「あんなぁ……あからさまに警戒すんなよな、何にもしないから」

そう言うと、さっさと寝ろよと、リモコンで電気が消される。

ベッドの上からは、月の光がぼんやりと照らされる。遥はベッド脇に身体を預けたまま、私に背を向けていた。

背を向けられているのに、なぜだかほっとした。遥の後ろ姿が見えて一人じゃないって思えるから。

私はゆっくり瞼を閉じる。点滴のせいだろうか、あっという間に無意識の底の方に、堕ちていく感覚があった。


消えていく意識の中でもう一度、遥の背中を見ると、寂しそうで、泣き出しそうに見えた。
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