忘れさせ屋のドロップス


「あ、あの、おはよう、御座います」

ダイニングテーブルには、目玉焼きとミニトマトに玉ねぎのスープが並べられて、一番大きなプレートにフレンチトーストが乗っかっていた。

「おはよ。あ、敬語じゃなくていいから、アイスコーヒー飲むよな?」

 
「あ、大丈夫、自分で……」


私はアイスコーヒーに牛乳をいっぱい入れないと飲めないから。 

昨日会ったばかりの遥に手間をかけさせては悪いと思った。

「はい、どーぞ」

ぶっきらぼうにそう言うと、遥が、牛乳をたっぷり入れたアイスコーヒーをコトンと置いた。

「……あ、の……何で?」

『spring』の席に座りながら、私は遥に訊ねた。

「何?」

自分のグラスにブラックのアイスコーヒーを注ぐと遥がパイプ椅子に跨った。

「何で、わかるの?」

私が牛乳をたっぷりいれなきゃコーヒーを飲めない事を遥は知らないはずだ。だって昨日初めて会ったのに。まるで、私の心が……

「心が読めるとか思ってんの?読めるワケねーだろ。……姉貴から聞いた」

意地悪く遥が笑った。

てゆーか、この話2回目だろ、と遥が笑いながら、小さく呟いた。



ーーーーカランと扉が開いて、渚さんが入ってきた。

「おはよ、有桜ちゃん、眠れた?」

頷いた私に優しく微笑みながら、私の向かいの席に腰掛けた。 

「時間外診療」

悪戯っぽく笑うと私の胸に慣れた手つきで聴診器をあてる。

「うん、大丈夫!心音正常だよ」

「良かった」

私より先に遥が答えて驚いた。

「何だよ、ジロジロ見んなよな」 

少しだけ頬を赤くした遥を見て渚さんが笑っていた。

何だろう。遥が居て、渚さんが居て、なんて事ない朝なのに、すごく居心地が良くて、ほっとする。

「有桜も早く食えよな」

フレンチトーストをひと口頬張った。

昨日から何もたべてなかったから、甘くてじんわり心まで満たされる。

「美味しい」

その言葉と同時に涙が一粒転がった。自分が泣いてることに気づいて慌てて目元を拭う。 

「あれ、私……なんで」

「……泣くほど美味いってことだろ、残さず食えよな」

遥は私の顔を見ずにそう言うと、食べ終わった食器を重ねてご馳走様と席を立った。

そしてそのまま寝室に入って扉を閉めた。


何だろう?泣いたからだろうか?何か気分を害してしまっただろうか?


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