忘れさせ屋のドロップス
「あの、渚さん……私、遥に」
「違う違う。有桜ちゃんがフレンチトースト食べて美味しいって言ってくれたのと、涙をみせてくれたのが、遥、嬉しかったんだよ」
「え?」
渚さんが私の頭に触れる。
「忘れたくないってことだよ、有桜ちゃんが大切な人を」
渚さんの言葉は、わかるようでわからなくて。
ーーーーでも、一つだけ気づいたことがあった。
私は遥のフレンチトーストを食べたことがある。思い出せないのに、確かにそう思った。
「ねぇ、有桜ちゃん、此処で誰と暮らしてたかわかる?」
「え?渚さんですよね?」
当たり前のように答えた私を見ながら、渚さんがアイスコーヒーのグラスを持ち上げた。
「遥は何て?」
「え?そうだって言ってました」
「じゃあ質問変えよかな」
「ねぇ、ここの真上、三階のあたしの部屋覚えてる?」
三階……そ、うだ。三階も渚さんの部屋だ。
あれ、渚さんは、どうして2フロアも借りてるんだっけ?
「混乱させるかなー。じゃあ一つだけ。アタシ最近仕事が忙しくて、主に三階に住んでるでしょ?思い出した?」
「あ、た、しかに。そうでしたね」
「でね、申し訳ないんだけど、此処には暫く帰って来れない。帰って来るのが真夜中だったり、早朝から出かけたりで有桜ちゃん起こしたくないんだよね」
申し訳なさそうに渚さんが眉を下げた。
「えっと、じゃあ、私が一人でしばらく……」
「うん、でもね、女の子一人じゃ物騒だし、アタシも心配だからさ、遥と一緒に暮らしてくれない?」
「えっ!……あの、私、その男の人と暮らすのは……」
思わず声が上ずっていた。
「少しの間だけでいいから、仕事が落ち着いたら、また一緒に暮らせると思うし。……アイツ住むとこなくてさ」
遥、住むとこがないんだ。
私も家出してきて此処に置いてもらってるのに、私が断るのは違うような気がした。でも男の人と……。