忘れさせ屋のドロップス

「有桜、洗濯機鳴ってんぞ」

洗濯物をカゴにいれると、小さなベランダに遥のスウェットから順番に干していく。

よく晴れた青空に、お日様が気持ちいい。

今日も夏日になりそうだ。


私は朝日の下で深呼吸しながら、チェストの上に置いてあるガラス瓶をふと眺める。

渚さんが海から持ち帰ったのだろうか。私はこのガラス瓶のなかの貝殻を見ていると、いつも幸せな気持ちになる。

綺麗で、大切なモノを切り取って閉じ込めたみたいな感覚で、見ていて飽きなかった。

「また見てんの?」

「あ、ごめん。遥、もうすぐ洗濯物おわるから」

「こっちも飯できたから」

渚さんの弟の遥と暮らす様になって1週間が過ぎた。

その暮らしは初めてなのに、何故だかそれが当たり前のようで、私は何故だかわからないその心の靄をどこか持て余していた。

「スープが冷めるから、早く来いよ」

寝室の扉から出していた顔を引っ込めて遥の足音が遠ざかる。

思わず駆け出そうとして足を止めた。


(私……なんで)

遥の後ろ姿を見たら、何故だか追いかけたくなった自分が、理解出来なかった。 



気持ちを落ち着かせるように、残りの洗濯物を干してから、私は小さく深呼吸した。 

ベッド脇の端に隠すように置いてあるスマホを確認するのが朝の日課になっている。

「……今日も大丈夫」

自分に言い聞かせるように言葉に吐いた。

病院から帰ってきた次の日に、恐る恐る電源を入れたが、あの人からの着信履歴もメールも未だにない。 


連絡がないのはないで、酷く不安になる。


私は不安を振り切るように、遥の待つダイニングへと向かった。
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