忘れさせ屋のドロップス
「あー痛てえよなぁ」
首を摩りながら、遥がサンドイッチを頬張った。
「あの、ごめん、ね。私が、その」
返事しながら、一口サンドイッチを頬張る。美味しい。遥は本当に料理が上手だ。
「何?美味い?」
こくんと頷いた私を見ながら、遥が口を尖らせた。
「美味いのはいいけどさー。てゆうか、感想位、口に出せよな。あとさ、マジでな、俺は毎晩ベッドの下の床で寝てんだからな。キツいからな!」
「あ、あの……」
返答に困った私に気づいた遥が、ボソッと呟く。
「……ま、別にいいけど、住まわせてもらってる身?だしさ」
口は悪いけど、遥は優しい。
此処に帰ってきた夜、寂しくて寝られないと言った私の言葉を覚えてくれていて、2日目からも黙ってベッド下のラグの上でいつも丸くなっている。
一度だけ、申し訳なくて、私がラグで寝ると言ったけど、また倒れたらいけないからと、遥は譲らなかった。
それ以降も朝起きて遥の姿を見るたびに、何故だか胸が苦しくなって、一緒にベッドでと言いそうになる。
でも臆病な私は、やっぱり出会ったばかりの遥と同じベッドは気が引けて、一週間たっても結局、言い出すことはできなかった。
トマトスープをスプーンでかき混ぜて一口飲んだ遥がこちらを見た。
「な、に?」
遥は必ず目を見て話すけど、綺麗な瞳に見つめられると私は居心地悪く感じてしまう。
「どっか、連れてってやろうか?暇だし。天気いいしさ」
ここ3日ほど雨続きだったから、今日みたいにカラッと晴れた天気だと出かけたくなるのは確かだ。
倒れてから、近所に買い物へ行く位でほとんど家で過ごしていたから。
「いいの?あの、遥は仕事とかないの?」
「あー……いま無職だし、配達も休業してるからな。有桜がいいなら」
「海、行きたい」
私の行きたい場所に予想がついていたのか、遥が、あっそ、と笑った。