忘れさせ屋のドロップス
波が押し寄せて、遥の膝下と私のつま先をさぁっと撫でて引いていく。
「は、遥。お、下ろして」
「分かってるよ」
遥は砂浜まで歩いてから、私をそっと下ろした。
「あ、ありがと」
「濡れなかった?」
平然としている遥と違って、私は多分顔が真っ赤だ。
遥に抱えられた手の感触が、残っていて、腰が抜けそうになる。
「だ、大丈夫。……あの重く、なかった?」
おずおずと尋ねる私を見ながら、遥が目を細めた。
「あのな、ちゃんと食ってんのかよ!」
「え?」
「もうちょい食えよな、次は波に攫われるからな!俺は助けねーからな!」
「ごめんなさい」
私はついまつ毛を伏せた。怒られたかと思ったから。
「別に怒ってねーよ。……心配してんだよ」
そう言うと遥は、私の頭をくしゃっと撫でた。
思わず遥を見上げて、目が合うと心臓が飛び跳ねる。
「何?」
「な、何でもない」
(私……どうしちゃったんだろう)
遥の視線や仕草から目が離せなくて、見惚れてしまう。こんなこと、初めてだ。
「それ頂戴」
遥は、私が握りしめていた両手いっぱいの貝殻をしゃがんで、ガラス瓶に入れていく。
淡い緑がかったガラス瓶に色とりどりの貝殻が吸い込まれていく様が美しくて魅入ってしまう。
「はい、どーぞ」
「あ、ありがとう。……えっと、遥、あの、これどうしたの?」
「あぁ……、持って帰りたそうな顔してたから適当なの拾っといてやった」
何でわかるんだろう。遥は満足そうにしていた。
「遥、ありがとう」
思わず遥に笑いかけた私を見て、遥が少しだけ嬉しそうにした気がした。
「有桜のコレクション増えたな」
遥が、にんまりと笑った。
ーーーー有桜の?
「え?」
「有桜きて、もうちょいで夕陽沈むから見てから帰ろうぜ」
私は頷いて、遥の後ろについて行く。
背の高い遥を後ろから見上げる。何だろう。
何故だか、わからないのに、遥を何度も見上げたことがあるような気持ちになる。
今日初めて出掛けたのに……。
私はガラス瓶を握りしめた。ずっと欲しかった宝物だから。