忘れさせ屋のドロップス

楽しい時間はあっという間だ。みんなでハンバーグを食べて、渚さんの差し入れてくれたスイカを、頬張って、勿論お腹も一杯だけれど、それよりも、居心地の良い空間に心まで満たされる。
 
「綺麗……」

渚さん達が帰って、遥と片付けを終えると先にシャワーを浴びた私は、ベッドにゴロンと寝転んだ。ガラス瓶を持ち上げて、にんまりしながら眺める。

「お気に入りだな」

「うん、ずっと欲しかったの」 

タオルで濡れた髪をガシガシと拭き上げながら、遥が、ベッドに腰掛けた。

遥の顔が私のガラス瓶を覗き込んで、スプリングが、少しだけ沈む。

何故だか急に鼓動が速くなる。


「へぇ、ほんと綺麗じゃん」

「う、うん……ありがと」

遥の目線がガラス瓶から、私に向けられる。

「疲れてない?」

「うん、大丈夫だよ」

遥は優しい。此処に帰ってきてから、私の体調をいつも心配してくれる。

久しぶりに外出した上に、夜みんなでご飯を食べたりしたから、私が疲れてないか気にかけてくれたんだ。

「もう、治ったよ」

「無理すんなよ」

遥が白い毛布を脇に抱えながら、部屋の電気をリモコンで消した。
 
「遥、あの……」

そのまま当たり前のように、ベッド下のラグに寝転ぼうとする遥に思わず声を掛けていた。

「どした?」

(……言わなきゃ)

多分今日を逃したら言えない気がした。

「あのね、その……遥もね」

「え?」


暗闇に目が慣れてきて、遥の瞳が不思議そうにこちらを見ている。

「遥もベッド、使わないかなと思って……」

暗くて良かった、私は多分顔が真っ赤だ。


「……無理すんなよ、別に俺は床でも平気だし」 


「無理、してないよ。それに、遥のこと信用してるから」


「何にもしないって思ってんの?」


月明かりで目線を合わせた遥が、子供みたいに笑った。

秋介さんとお酒を結構飲んでたからだろうか、いつもより遥の瞳が熱を帯びているように見えた。


「え?」

「じゃあ遠慮なく」

スプリングがギシリと音を立てて、遥が隣に寝転んだ。そのまま遥が私の方を向く。


薄茶色の瞳が逸らすことなく私をじっと見て、途端に落ち着かなくなる。


「おやすみ」

「え?遥?」

「先寝ろよ、有桜が寝たら、俺も寝るから」

「……目、瞑るの?」
 

遥の前で目を瞑るのが、恥ずかしくて思わず言葉に出てしまった。

遥がクククッと笑う。  


「目瞑らなきゃ寝れねーだろうが」


遥は天井を見上げるように体勢を変えた。

私が恥ずかしがったせいだ。    


「遥」

「ん?」

「ありがとう」
  
私はそのまま瞳を閉じた。

しんとした部屋の中で僅かに聞こえる遥の呼吸音に安心する。眠れそうにないと感じていたのに、疲れていたのか、あっという間に意識がふわふわと夜に飲み込まれていく。
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