忘れさせ屋のドロップス
自分と同じシャンプーの匂いと、甘い匂いにひどく安心する。
伸ばした手でぎゅっと掴むと私を包み込むように長い腕が背中に触れる。
(あったかい……)
心地よさに意識が行ったり来たりを繰り返す。暫くして、ゆっくり目を開けた私は咄嗟に声が出なかった。
目の前に遥の長い睫毛が静かに揺れてたから。
咄嗟に距離を取ろうと思って、自分の手が遥の背中のTシャツ裾を握りしめていることに気づいた。
「え?わ、……嘘」
朧げな記憶を一生懸命辿る。遥に私から抱きついた……?
「ん……っ」
遥が目擦ると小さく欠伸をして、すぐに私に目をやると切長の瞳を大きく開いた。
「え?」
慌てた遥が、抱きしめていた私の背中からするりと腕を解くと、勢いよく起き上がった。
「マジでごめん!」
遥が少し顔を赤くして、口元を覆ったのが見えた。
思わず私も起き上がってベッドの壁ギリギリまで身を寄せる。
「あ、違っ……」
「何にもしてないからさ、ほんとごめん!」
違う。記憶はうろ覚えだけど、多分私から遥に手を伸ばした、と思う。
申し訳なさそうな顔で遥が耳たぶを、摩った。
「違うの……、私が……その、遥にくっついた、と……思う」
あまりにも恥ずかしくて私は毛布を目元まで覆った。
「それほんと?」
姿は見えないけれど、スプリングが軋んで、遥が目の前に居るのがわかる。おずおずと目元だけ毛布から出した。
「……恥ずかしいから見ないで」
びっくりしたような顔をした後、遥がふっと、笑った。
「恥ずかしいのはお互い様だろうが」
遥に黒の毛布を剥ぎ取られて、朝から顔を見合わせて笑った。