忘れさせ屋のドロップス

ーーーーカラン


「はる、いるかい?」

「居るよ、何?」

有桜が、洗濯物を置いて慌てて寝室から出てくるより先に、洗い物をしていた俺は蛇口の水を止めて返事した。


扉の前に行くと、有桜が俺の後ろから慌てて走ってきた。思わず腕を掴んだ。


「有桜、走んな」

「あ、でも、もう」

「姉貴からも言われただろ、運動禁止」

俺と有桜のやり取りを見ながら吉野さんが笑った。

「有桜ちゃん、体調はどうだい?倒れたと聞いた時は驚いた」

吉野さんは、有桜の掌を両手でそっと包んだ。


「あの……暫くお手伝い行けてなくて、すみません。もうすっかり元気です」


顔色もいいし、ここ最近は泣くこともない。有桜は本当に元気になった。

「ちょっと、はるを借りても大丈夫かい?」

「遥ですか?」

一緒に配達に行ったことも忘れている有桜が驚いた顔をした。


「急な依頼があってね、はる、配達お願いできるかい?勿論無理にとは言わないからね」


「あー……俺は行けるけど、有桜……一緒に行く?」

姉貴からは外出は少しずつと言われていた。

昨日海に出かけたばかりだったから、無理させないか心配だった。

「あ、遥、私一人で待てるよ」

「……ほんとに?」

有桜に目線を合わせて確認する。

「うん、お昼ご飯でも作ってるね」

少しだけ、頬を赤くした有桜が恥ずかしそうに返事をした。

「わかった」

にこりと笑った有桜を見てから、俺は車のキーを手に取った。
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