忘れさせ屋のドロップス
「スマホ電源入れた?」

遥にいわれた通り、夜ご飯を食べてから電源をいれた。着信履歴もラインも何もない。遥がチェストから、ドロップスを取り出して放り込んだ。

「うん、何も……連絡はないけど」

「大丈夫だよ」

遥は、枕元からガラス瓶を持ち上げると、不安な顔の私に差し出した。いつも私が寝る前に眺めてるからだ。

「また行こうな」

「また……連れて行ってくれるの?……だって……」

あの海もあの景色もあの夕陽も、遥にとって特別だから。

那月さんとの思い出が、沢山詰まってるから、私とまた一緒に行くのは、遥は嫌なのかと思っていた。

遥が、ゴロンと私の方に向いて転がった。


「泣くなよ?」

遥が唇を持ち上げると、ドロップスを、カロンコロンと転がした。

「……たしかにさ、那月も思い出すよ。多分あの海を見るたびに思い出す。那月を忘れるなんてできない。
……でもさ、あの海に那月を思い出しに、有桜と行きたいんだ。

でさ、有桜の嬉しそうにはしゃぐ姿を見ながらさ、俺は、那月にもう大丈夫だからってさ、言えたらなって……そう思ってさ」

泣くなよって言われてたのに嬉しくて涙が出る。遥が両手で頬を包むと笑った。


「泣き虫」

「遥……ひっく……」

遥は私を包み込んだ。遥の鼓動が心地よい。 

遥の唇が額に寄せられた。ドロップスの甘い匂いが降ってくる。


「落ち着いた?」

「うん……安心する」

「ん?俺とこうしてんのが?」

遥のスウェットから遥の匂いと、自分の匂いの両方がして、聞き返されると急に恥ずかしくなった。
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