忘れさせ屋のドロップス
一呼吸置いてから俺は、有桜の顎を掴み上げた。

「いい加減にしろよ!抱いたからって勘違いすんな!お前のことなんか、結局、那月の代わりにしてただけ!」 

有桜は黙って、俺の瞳を見ていた。

掴み上げた指先に、有桜の涙が伝って落ちていく。 

「……嘘つき……ひっく……私……遥が好きだよ……忘れられ…ない」

「さっさと俺のことなんか忘れろよ、言ったよな、俺は誰も好きになれない」  

袖口で有桜が目元を強く拭う。

思わず手首を掴みそうになる、目が腫れるから。

有桜は何度も目元を拭ってから、深呼吸した。
俺の目を有桜の大きな瞳が、真っ直ぐに見つめる。

「待っててもいい?」  

有桜の瞳は真剣だった。思わず聞き返していた。

「何……言ってんの?」

「早く大人になるから……遥を……待ってもいい?」

「待つな。もう会うことない」

どんどん涙声になって、最後は大きな涙が真っ赤な目尻を滑り落ちていく。

有桜が、俺に泣き顔を隠すように俯いた。

待ってろなんて、そんな不確かなこと言えない。有桜の人生を背負ってやれるには、今の俺は、何も持たなすぎるから。

……ごめんな。泣かせてばっかりだった。

本当に最後まで。俺のことなんて、早く忘れてくれていいから。
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