忘れさせ屋のドロップス
有桜が、俺の握りしめた右手にそっと触れた。

小さな掌からじんと温もりが伝染する。

「ごめんね……遥……私……もっと早く生まれたかった……いますぐ大人に……なりたかった……遥と今、一緒に居たかったの……」

有桜は背伸びすると、俺の首に両手を回した。 

「遥、大好きだよ」

有桜が何しようとしてるのか分かったけど、俺は拒まなかった。

拒めなかったんだ。

触れただけの唇は、あったかくて、有桜の涙の味がする。

ーーーーもうこのまま攫って、何処かに行ってしまおうか。

泣き虫で、寂しがり屋で、つらいことをつらいって素直に言えない。俺も有桜も。

明日から俺が居なくて泣いたりしないだろうか?夜も一人でちゃんと眠れるだろうか? 

俺が側に居なくても、笑って過ごしてくれるだろうか。

有桜の笑った顔が、俺は一番好きだった。


ゆっくりと離された有桜の唇を、もう恋しいと思う俺は、どうかしてる。
 
どうかするほどに俺はもう……。

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