忘れさせ屋のドロップス
「関係ねーだろ、俺がどうしようが!」 

 案の定、不機嫌を露わにした遥の首元のシャツをグイと掴んだ。  

「なあ、遥。いい加減にしろよな。那月は死んだんだ!会えない!二度と!」

「そんなこと言うな!」  

 遥が、俺の腕を力いっぱい掴む。  

「何度でも言ってやるよ!那月は死んだ!」

「やめろっ!」

「……見てらんねーだろ。俺も渚も。頼むから、もう少しだけでいいから、自分を大事にしろよ」

 少しでも伝わって欲しい。もう那月はそんなお前を見たくないんだよ。

「お前に……言われたくない」

「俺は那月の兄貴だ、言う権利あると思うけどな」

 遥からの返事の代わりにドロップスをカロンと転がす音が響いた。

 そして、少しして遥が口を開いた。

「……秋介、俺さ……会いたくてたまらくなくてさ、自分削らないともたない」

「何のために俺や渚が居んの?いつでも吐き出せばいいんだよ。俺らは、いっつも待ってんのに。……有桜ちゃんもな。毎晩お前を待ってくれてんじゃねーの?……おかえりって言ってくれる人がいるじゃん。遥は一人じゃないんだよ」


ーーーーもう充分だろう?那月。

 遥が、お前を忘れられるように、ラクになれるように、助けてやってほしい。

 俺の手向けた線香の束を、遥がじっと眺めている。糸のような灰色の煙がゆらゆらと、雲一つない空へと消えていく。

「……来るのは今日で最後にしろ」

 遥は黙ったまま、サングラスを掛けた。

「考えとく」

 溜息を吐きそうになりやめる。溜息は好きじゃない。幸せが溢れるなんて、いう人もいるが、そうじゃない。溜息は孤独を吐き出すような気がするから……。
 

ーーーーポケットでスマホが震えた。

『今日、いつものお店で待ってる』

 俺はやっぱり溜息を吐いた。

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