冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
終業後にお時間をいただけませんか。

声をかけたのは翌日の昼だった。ちょうど外出前に総務部に寄った豊さんを呼び止め、そう願った。事件以来まともに顔を見られていない。
豊さんは私の顔を見つめ、数瞬黙り、それから無表情に頷いた。

「19時に俺の執務室へ」

定時後、私は言葉通りに執務室へ向かった。社内にはまだ人が多くいて、なるべく誰にも見とがめられないように同じフロアの豊さんの部屋へ移動する。

「失礼します」

ノックをして入室すると、豊さんは執務用のデスクにいた。パソコンのディスプレイに向かい合っているけれど、私が来たのでシャットダウンしたようだ。ノートパソコンをぱたんとたたむのが見えた。

「お時間を頂戴しましてありがとうございます」
「きみがなんの用だ。奥村明日海」

豊さんは冷たい声で尋ねた。その声だけで、彼が私を不快に思っているだろうことが想像でできる。私は息を吸い込み、深く頭を下げた。

「あらためて謝罪に参りました。この度は弟の望が大変なことをしました。申し訳ありません」

執務室にはしばし沈黙が流れる。ややして豊さんが「顔をあげろ」と言った。おずおずと背筋を伸ばすと、氷のような視線とぶつかった。

「きみには関係のないことだな」
「いえ……! 気づけなかった家族にも責任があります。それに父の会社のことも……」
「ああ、なるほど。きみは、この件で奥村フーズが笛吹製粉から放逐されるのを恐れているのか」

私はぐっと唇を噛みしめた。理解が早くて助かると思うべきだ。それからあらためて頭を下げる。
< 10 / 174 >

この作品をシェア

pagetop