冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「どうか、奥村フーズだけはそのまま笛吹製粉の傘下企業でいさせてはいただけないでしょうか」
「“だけ”はというのは」
「お目障りでしょうし、私は笛吹製粉を退職します」
豊さんは黙っていた。元から誰とでも気易く話す人ではない。彼の笑顔自体、パーティーなどで見かける他人行儀な微笑しか知らない。
だけど、この沈黙は怖かった。彼は何を考えているのだろう。私のしたことは裏目だったのかもしれない。
「……婚約者に逃げられるというのは、男として不名誉」
ようやく豊さんが発した。伏し目がちだった私はそろりと彼を見やる。美しいけれど怜悧な瞳が私を射抜いていた。
「この件はプライベートだと言い切りたいが、俺の結婚は、仕事のうちでね。そういった意味では、身辺をわずらわしくされて迷惑はしている」
「誠に、申し訳ありません」
「奥村明日海、俺のむしゃくしゃした気分を晴らす手伝いをする気はあるか」
驚いて喉を鳴らしてしまった。彼の視線は私にひたと張り付いている。
「どういうことでしょうか」
「俺と一晩過ごす気はあるか、と聞いている」
心臓が大きな音をたてた。一晩、それは間違いなくそういう意味だ。
私が言葉に迷っていると、豊さんはふっと笑った。それがこの人の素の笑みとしては初めて見たものだ。
「悪かった。忘れてくれ」
「いえ、その」
「俺も気が立っていたのだろう。立場と罪悪感を利用して、女性に迫るなどと。すまなかった」
「いえ、豊さん!」
気づけば叫んでいた。
こんなチャンスはもうこないだろう。この人にとって、私は憎い男の姉。この先もずっとそう。
「“だけ”はというのは」
「お目障りでしょうし、私は笛吹製粉を退職します」
豊さんは黙っていた。元から誰とでも気易く話す人ではない。彼の笑顔自体、パーティーなどで見かける他人行儀な微笑しか知らない。
だけど、この沈黙は怖かった。彼は何を考えているのだろう。私のしたことは裏目だったのかもしれない。
「……婚約者に逃げられるというのは、男として不名誉」
ようやく豊さんが発した。伏し目がちだった私はそろりと彼を見やる。美しいけれど怜悧な瞳が私を射抜いていた。
「この件はプライベートだと言い切りたいが、俺の結婚は、仕事のうちでね。そういった意味では、身辺をわずらわしくされて迷惑はしている」
「誠に、申し訳ありません」
「奥村明日海、俺のむしゃくしゃした気分を晴らす手伝いをする気はあるか」
驚いて喉を鳴らしてしまった。彼の視線は私にひたと張り付いている。
「どういうことでしょうか」
「俺と一晩過ごす気はあるか、と聞いている」
心臓が大きな音をたてた。一晩、それは間違いなくそういう意味だ。
私が言葉に迷っていると、豊さんはふっと笑った。それがこの人の素の笑みとしては初めて見たものだ。
「悪かった。忘れてくれ」
「いえ、その」
「俺も気が立っていたのだろう。立場と罪悪感を利用して、女性に迫るなどと。すまなかった」
「いえ、豊さん!」
気づけば叫んでいた。
こんなチャンスはもうこないだろう。この人にとって、私は憎い男の姉。この先もずっとそう。