冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「私、望を探すから。望の友達や、頼れそうなツテを、聞いて回るから」
「いいんだ、明日海。おまえは変わらず笛吹製粉に勤められる。仕事ぶりが認められているんだろう。私たちはいいから、自分の人生を大事にしなさい」

意気消沈している両親。何もできない私。
歯がゆかった。そして、どうしようもない憤りが心を支配していた。

望はどうしてそんな自分本位なことをしたのだろう。好きな人と逃げられて幸せかもしれないが、私たちのことは何も考えていない。ごめんと置手紙で謝って済むような問題でもない。
望がそそのかしたと言い張る中安議員にも腹が立った。あなたの娘だって、同じだけ罪があるじゃない。可世さんには豊さんがいたのに。豊さんを傷つけている分罪は重いじゃない。

そこまで考え、脳裏に豊さんのことが浮かんだ。
ああ、彼にとって私は憎い男の姉になってしまったのだ。未来の妻を寝取った男の姉。この烙印は一生消えないだろう。

今まで豊さんとはあくまでいち社員としてではあるけれど、普通に接してきた。気さくなタイプではない彼も、頼まれた仕事をこなせば、私の目を見て「ありがとう」と言ってくれた。そんな一瞬が嬉しかった。
だけど、これから先はそうもいかない。笛吹製粉でこのまま働いていてはいけないのではなかろうか。

豊さんに会いに行こう。
少なくとも彼とは顔見知り。私が一方的に憧れている気持ちを彼は知らないけれど、私は奥村フーズの娘であることは認識している。
直接謝罪しよう。
そして、お願いしよう。どうか、父の会社だけはこの先も傘下企業として扱ってほしい。目障りなら、私は笛吹製粉を退職するから、と。

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