冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「ただいま。どうした」

そこに父が帰宅する。手紙を見て、さっと顔色を変えた。

「今日は体調不良で休むと言っていたはずだが……」
「朝、病院に行くと出ていって。私もさっきこの手紙を見つけたんですよ」

母は泣きそうに顔をゆがめている。そこで私はハッとした。
可世という字面に心当たりがあった。響きは珍しくないけれど、この字を使うのはあまり見ないなと覚えていたのだ。

「この可世さんって……、中安衆議院議員の娘さん……だったりしない?」

私の言葉に両親が息を呑んだ。中安可世さんは笛吹豊さんの婚約者。偶然にも望と同じ大学で、彼のひとつ上。テニスサークルでは先輩後輩だったはず。少なくとも、私と父はそのことを知っている。

私たちは顔面蒼白で、それでも一晩弟の帰りを待った。
弟のスマホは部屋においてあり、連絡のつけようはない。そして、相手が本当に中安議員の娘さんなのかも確証がないので、先方に連絡を取ることもできない。
ただただ、弟が家出を思いとどまって戻ってくるのを待つしかできなかった。
しかし、私たちの期待もむなしく弟は帰宅しなかった。私と両親は警察に捜索願を提出しにいった。しかし事件性がなく自分の意思で失踪をした場合、積極的な捜査はできないものらしい。

追い打ちをかけるように、警察署から帰宅した私たちを待っていたのは、中安議員夫妻だった。やはり弟の同行者は中安可世さんで間違いなさそうだ。
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