冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「お宅の息子がうちの可世をたぶらかしたんだろう!」

近隣に響き渡るような怒声を玄関先で発され、両親はただひたすらに頭を下げていた。

「私どもも何も知りませんで」
「申し訳ありません」

そう繰り返す父と母を見て、一緒に謝罪しながらも理不尽でやるせない気持ちだった。どうして、両親ばかり責められるのか。こちらだって、跡取りが家出なのだ。連れて行ってしまったあなたの家の娘さんにひと言もの申す権利はあるはずなのに。

しかし、そんなやりとりは無意味。当事者はいないのだ。
弟は駆け落ちした。恋人とすべてを捨てて逃げてしまった。
ふたりは今頃何を思っているだろうか。ロマンティックな逃避行に酔うのは勝手だけれど、残された人たちは、怒り、戸惑い、右往左往している。そんな事実は彼らの頭によぎりもしないのだろうか。

中安議員夫妻が怒鳴るだけ怒鳴って帰り、私たちは三人で玄関に立ち尽くし呆然としていた。
父も私も今日は会社にいけていない。三人とも弟を待って、睡眠も食事もろくに取れていない。虚脱感がすごい。

「……笛吹社長と豊さんのもとへ行ってこなければならないな」

父が呆然と言った。そうだ。まだ終わりではない。望が手を取っていった人は、豊さんの婚約者……。
望の駆け落ちの理由は、十中八九可世さんの結婚を阻止するためだろう。しかし、それは奥村フーズと笛吹製粉の今後の関係に大きく影響する事案だ。

「この先、どうなるのでしょう」

母が涙ながらに尋ねる。父は力なく「わからない」と答えるばかりだった。

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