冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
あのキスはなんだったんだろう。

一週間ほど前、豊さんにキスをされた。私は体調不良で臥せっていて、彼は私を心配して枕元にいたのだ。
キスは触れ合うだけのもので、彼は一方的にキスしてしまったことを詫びて去って行った。

あのキスがどういう種類のものだったのか、いまだ私はわからずにいる。
彼は、私にキスをしたかったのだろうか。
仮にも一度は抱き合った仲だ。男性として私に性欲を覚えたことはあるのだろう。だけど、そこに感情はない。彼は単純な処理として私を抱いただけだ。八つ当たりのようなものだとあのときも言っていたじゃない。
二年も経って、他の男の子を産んだと言い張る女に、同じようにその気になるのだろうか。

同居して、不思議と距離が縮まって、ふと気が緩んだのかもしれない。魔が差したとでもいうのだろうか。
そう、きっとそんな感じだ。
だから、私からは当然蒸し返さないし、なかったことにしてしまおうと思っている。

一方で、あのキスのときめきはずっと私の心を支配していた。重なった唇のかすかな感触。お互いの心臓の音が聞こえてきそうな距離。交わされた吐息。
豊さんともう一度、男女の情交の距離で接するとは思わなかったのに。こんなことであの日殺した恋心を思い出したくない。

「明日海、次の週末だが、何か予定はあるか」

ダイニングテーブルの横で、残ったコーヒーを飲みながら豊さんが尋ねてくる。未来の朝ごはんを並べていた私は、顔をあげた。
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