冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「いえ、特には」
「車を出す。出かけないか」

思いもかけぬ誘いに、私は目を見開いた。

「お買い物か何かですか?」
「いや、未来が遊べるような大きな公園とか。日差しが気になるなら、屋内の子ども向け施設でもいい。未来も、毎日同じ行動範囲だけではつまらないだろう」

豊さんは照れ隠しなのか仏頂面だ。未来のために、日ごろから心をくだいてくれてはいるけれど、遊び場や活動についてまで考えてくれているとは思わなかった。
私は笑顔になって頷いた。

「ありがとうございます。行きたいです」
「どこに出かけたいか考えておいてくれ」

豊さんはそう言って、出勤していった。

「まま?」

豊さんの出て行ったリビングのドアを見つめ、私はしばし放心してしまう。豊さんは本当にどういうつもりなのだろう。
私と未来を喜ばせることばかりする。彼は、本当に私たちと家族になろうとしてくれているのだろうか。

「ごめんね、未来。朝ごはん食べようね」

未来を幼児用の椅子に座らせながら、自分の中に湧き起こる期待を否定した。
豊さんと私はまだ入籍していない。
依然、彼は私を望をおびき出す道具だと思っているはず。必要がなくなれば、きっとこの生活も終わり。
妙な期待はしてはいけない。今まで通りでいるべきだ。

私は未来の真実を豊さんに伝えない。豊さんが私たちを不要だと判断したときに、未来を奪われないためにも。
私は未来だけいればいいと心に誓ったし、封印した恋を紐解く気もないのだ。
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