君の甘さには敵わない。
鼻と鼻が触れ合いそうな至近距離でこちらを見つめてくる颯さんは、こんな状況でも変わらずの美貌を持っているのが分かって、





「いい加減、俺のもんになれよ」





本気で私を想っているのが丸分かりなその台詞は、私の頬を赤くさせるのと同時に、胸に小さな痛みを与えた。




と。



「ねえ颯、さっきから煩いんだけ、ど、……きゃあああああああ!何してるの!?僕のナナちゃんに手出さないでよ!」


颯さんの唇が私の唇と触れ合うその瞬間、颯さんの部屋のドアが開いた音と共に千晶さんの甲高い叫び声が耳をつんざいた。


「っ、千晶、さん…」


「……お前、」


求めていた時間が奪われ、悔しそうに顔を歪ませた彼は、数秒固まった後に地を這うような恐ろしく低い声を出してのそりと起き上がる。


助かった、と安堵する私より、


「颯がいくら兄貴だからって、こればっかりは許せないからね!?本当に信じられない!」


女子よりも高い声でキーキー喚く千晶さんを次なるターゲットに捉えた金井家の長男は、鳥肌が立つ程に真っ黒な笑みを浮かべて。


「お前、分かってんだろうなあ?」


ドスの効いた声を出しながら、千晶さんに詰め寄った。


(喧嘩?此処で!?)


もう、先程から展開が早すぎて頭が追いつかない。


私は果たしてどうなってしまうのか、この部屋で大人しく男同士の喧嘩を傍観していなければならないのか。
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