15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

「お父さんだって、奥さんは痩せてて美人の方がいいよね?」と、由輝はあろうことか父親に振った。

「んーーー」と、和輝が味噌汁をすする。

「お代わりあるか?」

 私は差し出された空のお椀を持って立ち上がった。

「由輝。女の人に顔や体型のことは言うもんじゃないぞ」

 小声で言ったつもりだろうが、カウンターを挟んでいるだけで対面キッチンなのだから、丸聞こえだ。

「女の人っつったって、お母さんじゃん」



 お母さんの性別は女ですけど!?



「それでも、だ。誰にでも、どうしようもないことはあるんだ」



 どうしようもないって何よ!



「ふーん」

「二人して、最低だね」と、和葉が冷ややかに言った。

 小学六年生にしてはマセている子で、三週間後の卒業式に袴を着るか、ワンピースを着るかで、悩みに悩んだのは一年前のこと。

 結局、お友達と一緒に、ワンピースにした。

 理由は、嫌いなグループの子たちが袴を着ると知ったから。

 ワンピースに合わせて髪をゆるふわに巻きたいと伸ばし続けた髪は、ポニーテールにしても背中の真ん中まである。

「女の価値は顔やスタイルじゃないのよ」



 おいっ!? 小学生!



「けどさ? お父さん、若くて可愛い子にチョコもらったって喜んでたじゃん。やっぱ、若くて可愛いのがいいってことだろ?」



 なに、それ!? 聞いてないけど!

 ってか、顔とスタイルの上に若さまで加わった!?



「浮気とか、最低。私、お母さんとこの家に残るから、男二人で出て行ってよね」



 いや、チョコくらいで浮気か?



「和葉、バカなことを言うんじゃない。お母さんにこの家のローンが払えるわけないだろう」



 そこかよ!?



 もう、呆れて何も言えない。

 私はお椀を持って戻り、和輝の前に置いた。



「ありがとう」もなしかい!



「バカなこと言ってないで食べなさい」

 唐揚げの皿は空だった。

 いつものことだ。

 わかっていながら、自分の分を皿に取らなかった。

 三人の中で誰か、私が唐揚げを一つも食べていないことに気づいているだろうか。

 いつものことなのに、ふと無性に悲しくなった。

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