15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

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 日本人は一生に何度セックスをするのだろう。

 付き合っていた頃から和葉が生まれるまで、和輝と何度セックスをしただろう。

 五才違いの私たちは、友達カップルの紹介で知り合った。が、実はそれ以前に顔を合わせていた。

 私は、小さな文房具店で働いていて、その店の斜向かいのマンションに、和輝は住んでいた。

 彼は私の店にペンや手帳なんかをよく買いに来ていたから、私の友達の彼氏の友達だと紹介された時、すぐに分かった。

 彼は私を知らなかったが。

 私は二十一歳、和輝は二十六歳だった。

 彼には私が随分子供に見えていたのだろう。

 由輝が言ったように、当時の私は小柄で、年上の和輝の前では緊張しっ放しだった。

 友達の好意は無下にできないと、何度か二人で会った。

 それが始まり。

 出会ってから恋人になるまで、三か月。

 その間、和輝は手を繋ぐ以上は触れて来なかった。

 が、二十代後半の健全な男性ともなれば、我慢していたのだろう。

 恋人になってからは、ほぼ会う度に求められていた。

 ぬるくなったお風呂に浸かり、ぼうっとしていると、ドアの向こうに人影が見えた。

「お母さん、私も部屋に行くね」と、和葉。

「歯を磨いた?」

「うん。下、誰もいないから」

「わかったよー」

 娘の声に、若かりし頃の思い出を追いやり、お湯から出た。

 シャワーを出して、髪を濡らし、シャンプーボトルを押す。

 ブシュッと気の抜けた音。



 ないなら言ってよ……。



 我が家では、和輝以外は一緒のシャンプーを使っている。

 私の前に入ったのは和葉。

 背中の真ん中まで髪を伸ばしている娘は、何度言っても使い過ぎるほどシャンプーを使う。

 私はボトルを棚から下ろして、手元で何度も押した。

 ブシュッ、ブシュッ、プシュッ。

 私は僅かに手についたシャンプーを髪につけ、ボトルを開けてお湯を入れ、頭のてっぺんでボトルを逆さまにした。

 目が痛いのは、シャンプーが目に入ったからだ。決して涙なんかじゃない。

 お風呂を出て、肩より少し長く緩いウェーブの髪を乾かし、私も二階に上がった。

 寝室では、和輝と由輝がベッドに入ってタブレットを見ている。

「何してるの?」

「写真見せてもらうんだ」

「何の?」

「あ! お兄ちゃん、コンパス貸して」

 私の後から、和葉も寝室に入って来る。

「何してんの?」

「写真見せてもらうんだよ」

「何の?」

「お父さんにバレンタインのチョコをくれた人の!」

「私も見たい!」と、和葉もベッドに上がる。

 私たち夫婦は、それぞれのベッドで寝ている。

 昔は二つのベッドをくっつけていたが、私が妊娠してから離した。

「あ、この子」と、和輝が言って、子供たちがタブレットを覗き込んだ。

「わ! 可愛い」と声を上げたのは和葉。

「この人がお父さんにチョコくれたの?」と、由輝。

「でも、どうせみんなに配ったんでしょ? お返し狙いだね」と、和葉がマセたことを言う。
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