15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
確かに、この機会を逃せば私は一生、ラブホテルに泊まることはないだろう。
こういったホテルに泊まる理由は一つだろうが、それはどのホテルにも言えること。
最近のラブホテルは女子会で使われることもあると聞くし、何よりも安いのは魅力だ。
お母さんには絶対、言えないな。
びゅおっと気味の悪い音が聞こえた。
海沿いはただでさえ風が強いのに、雪が降れば吹雪となる。
天気が悪い中車を走らせるのは危険だと、私は自分の好奇心を誤魔化す言い訳をした。
「わかりました」
車を下りると、駐車場の入り口から雪が吹き込んできているのが見えた。打ちっ放しのコンクリートは風の音を反響させて、薄気味悪い。
私は自分のバッグ、和輝はスーパーで買ったものを持って、寒々とした駐車場に不似合いな、またしてもピンクのライトで照らされた『フロント入口』のドアを開けた。
初めて来たラブホテルは、折角のオーシャンビューだが猛吹雪の為に大時化。
私が泊まっていたビジネスホテルとは部屋はもちろん窓の大きさが全然違うから、晴れていればさぞいい景色だろう。
良いか悪いか、和輝は珍しく即決で最上階のスイートルームを選んだ。
それでも、さっきまで行こうとしていた旅館よりずっと安い。
私たちはソファに座り、コーヒーマシンで淹れたコーヒーを飲みながら、買って来たクッキーなんかをつまみつつ、横殴りの雪を眺める。
「家の方も吹雪かな」
「ここほどじゃないだろうけどな」
「明日帰ったら雪かきじゃない?」
我が家はカーポートがあるのだが、風向きによってはちょうどカーポートの下に吹き溜まりが出来てしまい、帰宅して車が止められないことが年に数回ある。
「由輝に言って来たから大丈夫じゃないか?」
「え?」
「あいつ、何にも言わないけど、かなり凹んでた」
「なんで?」
小言を言う母親がいなくて清々してそうなものだが。
「生意気なこと言っても、まだ子供だからな。寂しいんだろ」
「由輝が? ないでしょ」
「家に母親がいるって、それだけで安心できるんだよな」
そう言うと、和輝が持っていたコーヒーカップをテーブルに置く。
そして、ソファの背に片肘をついて頬杖をついた。
「俺も子供たちも、帰ったら柚葉が出迎えてくれるのを当たり前に思ってて、それがないのがこんなに寂しいって初めて分かったよ」
「寂し……かったの?」
初めて言われた。
付き合い始めてから今まで、和輝の口から寂しいだなんて聞いたことがない。
「寂しかったよ」と言うと、夫が私の手の中のカップを持ち上げ、テーブルに置く。
そして、その手で、行き場をなくした私の手を握った。
「俺さ、柚葉より年上だからしっかりしなきゃ……っていうか、弱い所は見せられないって……思ってた……かも」
「かも?」
聞き返すと、夫が口角を上げて、少しぎこちなく笑った。