15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
数日前、広田さんとの浮気を疑わなかった自分に言ってやりたい。
私が和輝を信じていることは、和輝が絶対に浮気しない理由にはならない。
夫との触れ合いを避けていたくせに、浮気なんて有り得ないと思っていたことが、有り得ない。
「そう思うのに、広田とのことは疑わなかったんだ?」
「冷静になってみれば、変だよね」
「いや。嬉しかったよ」
夫の親指が、私の手の甲を撫でる。
「信頼されてるな、って思ったから」
信頼していた。今もしている。
けれど、安心とは違う。
自分でもよくわからない。
「けど、がっかりもしたな」
「そう……なの?」
「うん。妬いてもくれないのかって」
「それは――」
「――けど、違うんだよな」と言うと、夫の視線が握られた手に下りた。
「浮気は疑わないのに、時計のことはすごく気にして、なのに向き合おうとしなくて、正直わけわかんなかったけど、なんかわかった気がした」
私でさえわからなかった感情。
こうして並べられると、情緒不安定で意味不明だ。
「仕事から帰ったら柚葉がいなくて、すごく心配したし不安になったけど、離婚……されるんじゃないかとかは、思わなかったな」
「思わなかったんだ?」
「うん。全然、思わなかった。けど、怖かった」
「なにが?」
「柚葉の気持ちがわからなくて」
そう言うと、和輝は私の手を離した。それから、ゆっくりと手を伸ばす。
彼の手は、切ったばかりの私の髪に触れ、首に触れる。そして、人差し指でうなじを撫でた。
くすぐったくて、肩に力が入る。
「いいな、この髪型」
ドキッとした。
こんな風に触れられたのも久し振りならば、『父親』ではない『男』の表情で見つめられるのも久し振りだ。
「和輝が短い髪が好きなんて、知らなかった」
「うん。俺も」
「え?」
「風呂上がりとか、髪をまとめて上げてるの、いいなと思ってただけ」
「いつの話――」
「――そう思ってたのを、思い出した」
「初めて聞いた」
こうして話している間も、和輝の手は私の首筋を撫でている。余程、触り心地が気に入ったのか。
「若い子と付き合えて、年上なんだからって格好つけてたせいで、言えなかったこと結構ある」
「例えば?」
「ラブホ、来たかったとか」
「けど――」
ラブホテルだろうと和輝のマンションだろうと、スルことは変わりないと思うが。
「――こういういかにもってところで、自分の家じゃデキないようなこと、シたいとか」
「えっ!?」
「柚葉に知られたら嫌われて結婚してもらえなかったかもしれないようなこと、結構考えてた」と、夫が苦笑いする。
「お揃いの物、持ちたいとか」
「ええっ!?」
全く興味がないどころか、そういうのは嫌いなんじゃないかと思っていた。ただでさえこだわりの強い人だから、持ち物を彼女に合わせるなんて嫌がりそうだと思っていた。
そうだ。
だからこそ、元カノとお揃いの物を持っているのが嫌だった。
「付き合って初めての柚葉の誕生日のこと、憶えてるか?」
「うん」
付き合い始めて半年もしないで私の誕生日がきた。
私は初めてのカレと過ごす誕生日に舞い上がっていたが、その日は平日で、当然和輝は仕事。
当日は家族とお祝いして、三日後に和輝に祝ってもらった。
「プレゼント買う時、俺もお揃いで買おうかなって言ったら、柚葉すごい困った顔してたろ。あれ、結構ショックだった」
「え? 私、困ってた?」