15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「格好つけてそんな店に連れて行かなくて正解だったのかな」
自分の甲斐性のなさに言い訳するように言うと、柚葉がふふっと微笑んだ。
「そうね。やっぱり、私とは不釣り合いなんじゃないかって、悩んだかも」
柚葉はいつも、こうして俺の気持ちを軽くしてくれる。
仮に、友達に自慢できるような大人の付き合いがしたかったと思っていても、ねだったりはしなかったろう。
会う度に柚葉は、『会社勤めは大変なんでしょう?』と、俺が疲れていないか、無理して自分と会っているんじゃないかと心配した。
柚葉が自分の仕事を卑下するのは、大学進学に意味を感じられず、バイトの延長のまま就職してしまったかららしいが、接客業だって大変な仕事だ。
そう言うと、いつも彼女は泣きそうに笑っていた。
その原因が広田と自分を比較してのことだったのだと思うと、胸が痛い。
「たまに、来たいな」
「え?」
「こうして、二人で」
「子供たちを親に預けて?」と、柚葉が苦笑いする。
「二人で留守番、出来るだろ」
「二人で好きなもの食べてなさいなんて言ったら、私たちの三倍は高くつくわよ」
確かに。
堂々とデートできるのは、いつのことやら……。
仕方がないと諦めつつ、ビールに口をつける。
喉を鳴らしながら視線を上げると、柚葉が笑っていた。
「でも、うん。たまには二人で食事したいね」
出来るかどうかは別として、妻も俺と同じ気持ちでいてくれることが嬉しかった。
「天ぷらって、自分じゃうまく揚げられないから、いつも頼んじゃうんだよねぇ」
食事を終えて店を出ると、柚葉が言った。
「また来ようね」
「そうだな」
陽が落ちて街灯の明かりが点いている。
子供の声はしなくなっていて、急に人通りも少なくなった。
駐車場に戻ろうと横断歩道の前で立ち止まった妻の肩を抱き、俺は方向を変えた。
「どこ行くの?」と、戸惑いながら妻が聞く。
「泊まって行こう」と、俺は目的地に目を向けながら言った。
「え?」
「明日、有休取ってるし」
「え?」
強引な自覚はある。
昔俺が住んでいたマンションの前を通り過ぎ、大通りから住宅街を進む。
「泊まるって、もしかして――」
「――知ってたんだ?」
「……」
マンションから十分ほどの場所に、ラブホテルがあった。
コンクリート打ちっ放しの建物は、入口の控え目な看板に気づかなければマンションにしか見えない。
部屋数より駐車スペースが少なくて、駅も近いから、歩いて入る客も多かったらしい。
昔は、だ。
現在は、壁が茶色く塗られていて、ますます普通のマンションぽい。
いや、普通のマンションになった!?
入口の看板もなく、代わりに『〇〇MS××通』と壁にはめ込まれている。
嘘だろぉ……。
「ラブホテルが普通のマンションになることって……あるんだ」
柚葉が呟いた。
ホテルに誘ったらホテルがなかったって……ないだろ……。
「カッコわる……」
ショックのあまり、心の声が口に出てしまった。
ついでにため息も。
「十五年も経てば、変わることもあるでしょ」
柚葉は何でもないように言った。
それから、肩を落とす俺の手を握る。俗に言う、恋人繋ぎというやつだ。
「行こう」
手を繋いで、というよりは、手を引かれて、駐車場に戻る。
「っていうかさ」
先ほどの横断歩道で信号待ちをしていると、柚葉が言った。
「歩いて入ったら、明日の朝、歩いてホテル出るの恥ずかしいよね」
確かに。
つくづく考えが足りないと自己嫌悪に陥る。
「家、帰る?」
「え?」
「違うとこ、行――」