15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
「交換する?」と、柚葉がキーホルダーを持ち上げて見せる。

「それじゃ意味ないだろ」

 言ってから、しまったと思った。

 柚葉が笑う。

「和葉に交換してもらう?」

「なんで」

「お揃いになるよ?」

「……別に」

 やっぱり、憶えていた。

 俺が昔、柚葉とお揃いの物を持ちたいと思っていた話。

「パジャマ、お揃いだよ?」

「……知ってる」

 柚葉はまだ、笑っている。

 俺はムッとして、柚葉の手からキーホルダーを取り上げ、サイドテーブルに放った。

 そして、妻の首筋に噛みつく。

 慣れたのか、柚葉は動じない。

「もうすぐ結婚記念日だね?」

「ん」

 来月は、十五回目の結婚記念日。

「お揃いの腕時計、買うか」

 妻のうなじに口づけながら、言った。

 柚葉はきっと、本当に、広田と揃いの腕時計のことは何とも思っていないだろう。

 結果的に揃いになったが、そのつもりではなかったものだ。

 だが、柚葉の不安の種であったのも事実。

 捨てても捨てなくても、その事実は変わらない。

「来月、ボーナスだし」

「けど――」

「――絶対、外さないから」

 昔と違ってサプライズできないからどうもキマらないが、仕方がない。

 俺の小遣いじゃ二人の腕時計を買えるまで貯めるとなると、何年かかるかわからない。

「ボーナス、期待できそう?」

「期待できる」

「そうなの?」

「うん。実は結構、頑張った」

「そっか。ご苦労様」

「まだ、出てないけど」

「そうだった」

 きっと、去年と同じ額でも、柚葉は『ご苦労様』と言ってくれるだろう。

 そういう妻を、これからも大切にしようと思う。

「今回のボーナスの俺の小遣いいらないから、時計買おう」

「……うん」

 初ボーナスで買った腕時計をつけることは、もうないだろう。

 思い出は、眺めているだけでいい。

 柚葉から貰った腕時計は、時々つけるかもしれない。

 広田に張り合ったにしても、柚葉の想いがこもったものだ。

 揃いの腕時計を買ったからって、息子に勝ったなんて思わない。張り合うつもりなんてない。

 きっと。

 情けないことに、絶対と言えないのが本心だ。

「あ、けど、腕時計より指輪直したいかも」

「指輪?」

「結婚指輪。太って入らなくなっちゃたから」

「ああ……」

 もともと指輪やアクセサリーをつける習慣がなかった俺と柚葉だったから、由輝を妊娠してきつくなったと柚葉が外し、由輝が生まれて指輪を口に含むようになって俺が外し、二つ揃って箱にしまわれている。



 揃いは揃いだな。



「じゃあ、指輪を直そう」

「うん!」

 予定とは違ったが、いいだろう。

 結婚指輪こそ、俺と柚葉だけの唯一無二の揃いのものだ。

 息子に勝っただなんて大人気ないことは思わない。

 息子がくれたキーホルダーをつけないのは、実用的じゃないし、傷つけたり壊したりしないためだ。

 決して、俺だけ揃いじゃないからといじけているわけじゃない。

 自分にそう言い聞かせた俺だが、翌朝、リビングのサイドボードの上の俺の鍵をじっと見つめる由輝を見て、己の小ささを反省したのだった。



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