あなたとわたしで紡ぐ愛

「……何って、渓くんが1人でもちゃんと起きられるようにですよ。スマホの目覚ましだけじゃ全然起きなくて、結局いつも私が起こしに行く羽目になるじゃないですか!」
 

そう。渓くんはスマホの目覚ましが鳴っても無意識にそれを止めて二度寝を決め込んでしまうという、朝に弱い典型的な低血圧。だから毎朝私が彼を起こす役目を担っているのだけど……。

私が口を尖らせると、濡れ羽色のツーブロックの襟足にぴょこんと寝癖を携えた渓くんが、眉根を寄せて突然私のほっぺを片手でむぎゅっと潰した。

……寝癖のついた寝起きの顔でもこんなにかっこいいなんて、ちょっとズルくないだろうか。


「……馬鹿。あんなやかましい音、近所迷惑だろうが。よって無駄な抵抗は止めて、今まで通り翠が起こしに来い」

「そ……」

「あ?」


"そんなんで、私がいなくなったらどうするんですか"


喉奥から迫り上がって来たその言葉はゴクリと飲み下す。


……ああ、あの人なら、目覚ましよりも容赦なく渓くんを叩き起こしてくれそうな気がするから大丈夫か……。


「……いひゃいれす(……痛いです)」


チクリと痛む胸に気づかないフリをしながら、私を真っ直ぐに閉じ込めてくるその瞳から目を逸らして文句だけを伝えれば、ニヤリと意地悪く持ち上がった口角が視界に入った。


「……オレを起こしに来るという僅かな労力を怠った報いだ」


その表情に、無遠慮に触れたその熱に、私の心臓が朝から忙しなく暴れ出す。

< 5 / 62 >

この作品をシェア

pagetop