オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
三段しか無い家の階段下の郵便受けの前には、肩までの黒髪に黒いスラックスに白いシャツの上から黒のコートを羽織った明香が立っている。
俺の足音で慌てて振り返る。
「あ……冬馬」
「悪かったな、期待してたヤツと違って」
「違っ……そんなことない」
口を尖らせた明香の口を摘んでやる。
「わ、冬馬のバカ。口紅ついたよ」
「別に手袋するし。てゆーか兄貴は?」
「うーん。そろそろだと思うけど?」
見上げれば扉が雑に閉まる音がして慌てて春樹が階段を下りてくる。春樹が時間ギリギリに家を出るなんて姿は珍しい。
「明香お待たせ!遅れてごめん、ギリギリだな」
「春樹おそいよ」
「パソコンに急ぎのメール入ってたから返してたら遅くなった」
長めの黒髪から垂れ目を細めてると明香の髪をくしゃっと撫でた。
「俺には謝罪なしかよ」
「何だ?ガキだな」
春樹は俺の頭もくしゃくしゃと乱雑に撫でる。
「うぜ。俺、先行っていい?」
「なんだよ。どうせ一緒の方向行くんだ。たまには3人で行こう」
春樹は垂れ目を細めると明香の右側に立った。左利きの俺は明香の右側に並ぶ。
「3人で出社なんて、久々」
明香が、俺と春樹を、交互に見ながら嬉しそうに笑う。
「いっつも冬馬が寝坊するから置いていくんじゃん」
「そりゃ悪かったな」
春樹と俺を交互に明香が振り返るたびに、朝からの冷たい空気に混ざって、明香の甘い髪の匂いがする。