オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「冬馬!寒いっ!」
「あのさぁ、着いたら連絡するって言っただろうが」
どの位、前から、マンション下で俺を待ってたんだろうか。
頭の上に少しだけ雪を乗せた芽衣が、拗ねながら、助手席に乗り込んだ。
「わっ、冬馬、もっと優しくしてよ」
線の細いショートカットの黒髪を、乱雑に撫でて雪を落としてやる。
「てゆーか、それ何だよ」
芽衣が大事そうに抱えているのは、
『今カップルに一番人気の婚約指輪特集!』とハートマーク満載で印字されている、結婚雑誌だった。
「見てみたいのがいっぱいあるから、一つの店に絞るの大変だったんだよっ」
手渡された雑誌をパラパラと捲れば、男一人では到底入りづらい店構えばかりだ。
ちなみに俺は、女に指輪どころかプレゼントも、したことない。俺がプレゼントを渡した唯一の相手は……。
「誰のこと考えてたの?」
「芽衣」
「……嘘つき」
芽衣が、急に俯いて目元に手を添えた。
「……おい、芽衣?泣くなよ?……買いにいくって言ってんだろ?」
慌てた俺を見ながら、芽衣がニンマリ笑った。
「……冬馬、焦った?」
芽衣は小さく舌を出した。
「もう買わねー」
俺は横目で芽衣を見ながら、ゆるりと車を発進させた。
「やだやだ、欲しいよ、朝から、ずっと……楽しみにしてたんだもん」
芽衣がわふくれっ面で俺を睨む。
「じゃあ、いちいち拗ねんな」
「だって……」
そこまで言って芽衣が黙った。
俺は、赤信号で車が停まると、ふくれっ面をしてる頬を、片手でつまんで、芽衣の唇に、キスを落とした。
「なっ……え?……」
口元を押さえて、声もだせないほどに驚いてる芽衣を眺めながら、俺はまた車を走らせた。
「遅かったから、寂しかったんだろ?悪かった」
唇を持ち上げた俺を、見ながら、芽衣が「……許してあげる」と真っ赤な顔で呟いた。