オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜

「冬馬!寒いっ!」

「あのさぁ、着いたら連絡するって言っただろうが」

どの位、前から、マンション下で俺を待ってたんだろうか。

頭の上に少しだけ雪を乗せた芽衣が、拗ねながら、助手席に乗り込んだ。

「わっ、冬馬、もっと優しくしてよ」

線の細いショートカットの黒髪を、乱雑に撫でて雪を落としてやる。

「てゆーか、それ何だよ」

芽衣が大事そうに抱えているのは、
『今カップルに一番人気の婚約指輪特集!』とハートマーク満載で印字されている、結婚雑誌だった。

「見てみたいのがいっぱいあるから、一つの店に絞るの大変だったんだよっ」

手渡された雑誌をパラパラと捲れば、男一人では到底入りづらい店構えばかりだ。

ちなみに俺は、女に指輪どころかプレゼントも、したことない。俺がプレゼントを渡した唯一の相手は……。

「誰のこと考えてたの?」

「芽衣」

「……嘘つき」

芽衣が、急に俯いて目元に手を添えた。 

「……おい、芽衣?泣くなよ?……買いにいくって言ってんだろ?」

慌てた俺を見ながら、芽衣がニンマリ笑った。

「……冬馬、焦った?」
芽衣は小さく舌を出した。

「もう買わねー」
俺は横目で芽衣を見ながら、ゆるりと車を発進させた。

「やだやだ、欲しいよ、朝から、ずっと……楽しみにしてたんだもん」

芽衣がわふくれっ面で俺を睨む。 

「じゃあ、いちいち拗ねんな」

「だって……」

そこまで言って芽衣が黙った。

俺は、赤信号で車が停まると、ふくれっ面をしてる頬を、片手でつまんで、芽衣の唇に、キスを落とした。

「なっ……え?……」

口元を押さえて、声もだせないほどに驚いてる芽衣を眺めながら、俺はまた車を走らせた。

「遅かったから、寂しかったんだろ?悪かった」

唇を持ち上げた俺を、見ながら、芽衣が「……許してあげる」と真っ赤な顔で呟いた。
< 114 / 201 >

この作品をシェア

pagetop