オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
ふと、画廊ギャラリーの前で、俺は足を止めた。ほとんど無意識だったと思う。

その絵が、目の端に入った途端、俺はあの絵を思い出していた。

真っ白な雪の中に佇む小さな女の子。柔らかそうな黒髪の三歳位の女の子が、冬空を眺めている。

「冬馬?絵好きなの?」
「いや……」

そこまで言って、俺は、ギャラリーの扉を開けた。

「芽衣、悪い、ちょっと付き合って」

俺は、芽衣の手を引くと、ギャラリーの奥のカウンターに座る初老の男性に声をかけた。

「すみません、あの雪の中に佇む小さな女の子の絵の方ってご存知ですか?」

芽衣が目を丸くして、俺を見上げている。

「あぁ、山下さんの絵かな?」

「山下?……山下、ケンイチさん?」

「おや、よく知ってるね、そうだよ。雪と小さな女の子の絵しか描かない画家でね、季節柄、この時期はギャラリーの外に展示してるんだ。いい絵だよ」

「ケンイチさんの漢字ってわかりますか?」

「あぁ、賢いに、一番だったと思うよ」

山下賢一(やましたけんいち)か……。

あの絵の端のサインに、俺は見覚えがあった。母さんが、死ぬ間際に俺に託した絵。

「その山下さんって、連絡先わかります?または、どんな人とか」

「知らないなぁ。そもそも、ふらっと来て、絵を置いて帰る位だしね。いつ来るかもわからない。優しい笑顔の穏やかな方だよ」

「最近来たのはいつか分かりますか?」

「……たしか1か月位前だったかな」 

俺は、少し迷ったが、名刺を差し出した。

「もし、山下さんが、来られたら、僕の名刺を渡して貰えますか?」

たとえ、俺のことを知らなかったとしてもだ。『平山』の苗字の奴が、自分のことを探してると知ったら、もしかしたら連絡があるかも、しれない。

咄嗟にそう思った。
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