オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
春樹の部屋を、出ると、俺は、そのまま突き当たりの社長室に足を向けた。幸之助(アイツ)に聞きたいことが、あったからだ。

ノックをすれば、いつもの無機質な声が、聞こえてくる。

「入れ」

俺は、左手でドアノブをひねると、社長室へと入った。

幸之助は、デスクの前でタバコを蒸している。

「芽衣との、式の日取りは決まったのか?」

俺の方を見ずに幸之助が、煙を吐き出した。

「式は、芽衣の卒業を待ってから春に挙げる。その前に入籍したいから、婚姻届の証人サイン貰える?」

「何故俺なんだ?春樹と明香に頼めばいいだろう?」

「春樹には、もう書いてもらった」

俺はボールペンと一緒に、婚姻届を、幸之助の目の前のデスクに置いた。

「聞きたいことあったついで」

幸之助が、俺を見上げて睨んだ。

「相変わらず随分な態度だな、冬馬」

「てゆうか、頭取は、芽衣が平山姓になること、了承してんの?」

「ふん、松原の籍に入れて欲しいのか?」

鼻をならすと面倒臭そうに、タバコの火を消した。

「俺は別に、平山でいい。頭取が納得されてるなら、芽衣には平山姓を、名乗ってもらう」

「好きにしろ、頭取は、芽衣が、お前か春樹、どちらかと結婚することを条件に、新たなプロジェクトの融資を、引き受けて下さったからな」

芽衣の言ってた通りだな。神谷滋は、後妻の芽衣の腹違いの妹を、溺愛してると言っていた。  

幸之助は、婚姻届の証人欄にサインをすると、俺に突き返した。

「話は終わりか?」

「いや、もう一つ、平山理恵子について聞きたいんだけど?」

幸之助の目が、見開かれるのが分かった。

「お前に……話すことはない」

「明香の父親のことが知りたい。山下賢一について」

「……お前、どこまで知ってるんだ?」

「え?……どういうことだよ?」

「いや。とにかく、山下賢一など知らないし、会ったこともない。大体、沢山いた愛人のうちの一人など、そもそも覚えてないからな」  

「そうだろうなっ」

俺は写真を、デスクに叩きつけた。

幸せそうに二人で頬を寄せ合って笑う理恵子と幸之助の写真だ。

「思い出した?俺の母さん、平山理恵子」

幸之助が、俺を鋭い目つきで睨みつける。

「アンタでも、どうでもいい愛人に、こんな顔すんだな」

幸之助は、写真を雑に取り上げると、破ろうと手をかけたが、そのまま破り去られることはなかった。

幸之助は暫く、その写真を黙って、眺めてから、小さく息を吐き出した。
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