オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
冬馬は、午後休を取ると、社用車に私を乗せて走り出した。

「遅くなるから、待っててもいいんだぞ?」

冬馬から、聞かれるのは、もう2回目だ。

「行く。山下さんに……会ってみたいの」

「春樹に、言っとかなくていいのかよ?」

春樹に、黙って外出したことなんかない。それも冬馬と二人きりで。

「春樹には言えよ。アイツが、どんだけ心配すんのか分かってんのかよ」

「……分かった」

私は、春樹のラインに、『奈々に会ってくるから遅くなる』とメッセージを入れかける。

冬馬が、小さく溜息を吐いた。

「ちゃんと、俺と居るって言えよ」

「でも……」

「もう……俺達三人で嘘は、なしだ」

私は『冬馬と山下さんに会いに行くから遅くなる、心配しないで』とだけメッセージを入れた。

冬馬は、赤信号を見つめながら、信号が変わるのを待つ。

「どうして……春樹は亡くなったって言ったんだろう」

私は、着ていたグレーのワンピースの裾を握りしめた。

春樹は、山下賢一さんは、既に亡くなっていたと、話していた。でも、先程冬馬に、かかってきた電話の相手は、山下賢一さんだった。どうして……春樹は嘘を吐いたんだろう。

「春樹が明香に嘘吐く位だろ?わかんねぇけど、山下賢一が、明香に会わせられないような、ろくでもない人間かも、しれないってことも考えられるからな」

そう、春樹はいつだって優しいし、私のことを一番に考えてくれる。冬馬は、横目で私を見た。

「……正直、俺もお前連れていくの迷ってるしな……明香が……傷つくのは見たくないから」

「……それでも、自分の目で確かめたいの。お父さんがもし生きているなら、やっぱり会ってみたい。例え、どんな人だったとしても」

冬馬は、暫く黙っていた。

「分かった……俺も隣に居るから、……とりあえず会いに行ってみよう」

私は、小さく頷いた。
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