オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
山下賢一の住んでる、軽井沢までは、車で約3時間だ。

平日だからか、道は空いている。雪は降ったり、止んだりだが、車を走らせるのには問題ない程度だ。

疲れていたのか、明香は、珍しく助手席で眠ってしまった。俺は、車で2時間程走ったところで、小休憩を取るためにサービスエリアに車を停めた。

後部座席に置いていた、自分の黒のコートを眠ってる明香にかけてやる。長い睫毛は規則的に揺れて、寝顔は子供の頃から変わらない。

明香の寝顔を見るのは、あの日以来だった。

俺は、少しだけ、明香の寝顔を眺めてから、スマホを取り出して、芽衣にラインを送る。

『山下さんから連絡があった、明香と向かうから、飯はいらない、ごめんな』

最後のごめんな、は、両方の意味で送った。寂しがり屋で、俺の帰りをいつも心待ちにしてくれてる芽衣と一緒に居てやれないこと、あと、明香と二人きりでいることに対してだ。

返信は、いつものようにすぐに返ってくる。

『山下さんから連絡あって良かったね。明香さんのお父さん、いい人だといいね。冬馬、遅くなっても大丈夫だからね』

明香と俺が二人きりで、遅くなっても大丈夫だなんて、そんな訳がない。

芽衣が、また無理して、俺が居ない所で、泣いてないか心配になる。

『帰る時、連絡するから。泣くなよ』

『待ってます』とウサギが、ピョコンと飛び跳ねるスタンプが送られてくる。

俺は、小さく溜息を吐き出してから、窓を少しだけ開けた。

ふわりと一粒雪が舞い込んで、目の前で溶けて消える。

こうやって、少しずつ消していったはずの想いは、隣で眠る、明香の呼吸音を聞いているだけで、あっという間に膨れ上がりそうだ。

「……いい加減にしないとな」

誰にも聞かれることのない、独り言を呟いて、
胸ポケットの煙草に手をかけた時だった。

スラックスの中のスマホが震える。

俺は、液晶画面を見て、少しだけ、躊躇いながら、通話をタップした。
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