オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜

「もしもし」 

『……明香は?』 

「あぁ、隣で寝てる」

『なぁ、冬馬、悪いけど、明香寝てるなら、今すぐ、連れて帰ってきてくれないか?』 

珍しく焦った様子の春樹に、違和感を覚えた。

「山下さんとこ行かずにか?」 

『……悪いけど』

「珍しいな、お前が、理由も言わないなんて。
そもそも……何で死んでるって、明香に嘘ついた?」

春樹は、黙ったままだ。

「春樹?明香に、山下さんを会わしたくない理由って何?」 

『……ごめん』

電話だから、春樹の表情までは分からない。 
ただ、泣いているのかと、一瞬よぎるような声色だった。

『……分かった……今から明香連れて帰る』

その時、グイッと俺のスマホを持つ左手が、引っ張られる。

「え?」

いつの間にか目を覚ました明香が、俺の手首を掴むと、そのまま俺の持っているスマホを、耳元に当てた。

「おい、明香っ」

「私、帰らないっ。山下さんに会ってみたいの」

スマホ越しに、春樹の声が聞こえるが、何を明香に話してるのか、俺にはわからない。

「……春樹、どうして嘘ついたの。……やだっ……分かんないよ…………帰らないっ……」 

春樹に、嘘をを吐かれたことが、やはりショックだったんだろう。

明香は、涙声だ。

「……冬馬と居るっ……山下さんに会ったら、帰るからっ」

それだけ言うと、明香は、一方的に通話を切って、電源を落とした。

春樹に対して、こんなに感情的になる明香は、初めて見たかも知れない。

「……ひっく………ふ……っ……」 

「明香……」

大きな瞳から、溢れた涙を、俺から隠すように、明香は窓の方を向いた。

俺は、気づいたら手を伸ばしていた。

明香の華奢な身体を包み込んで、そのまま背中を摩ってやる。 

「……冬馬……ひっく……」

明香が、俺の背中に両手を回すと、皺になる程に強くシャツを握りしめた。

「大丈夫だから……泣くな……」


< 138 / 201 >

この作品をシェア

pagetop