オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「あそこだな……」 

山を切り崩した、まだ雪の残る山道を、ゆっくり抜けて、大通りに出る道とは、反対側の橋を渡ると、周りを樹々に囲まれた、一軒の家が見えてきた。

屋根が、緑色のモダンな作りで、レンガに囲まれた庭先には、チューリップの球根が植えられている。玄関扉横の大きな桃の樹には、淡い桃の花が所々、雪と共に揺れていた。

俺は、庭先に車を停めて、シートベルトを外した。

「……冬馬」

隣を見れば、既に泣きそうな顔をした明香が、ワンピースの裾を握りしめていた。

「無理……しなくていいから……俺だけ会ってこようか?」

明香は、小さく首を振った。

「春樹が、山下さんと会って、何を話したのか……知りたい……」

「春樹が、明香に会わせられないと思うような人でもか?」

「……冬馬は?」

俺が電話で話した、山下さんの声色は穏やかで、それでいて、どこか哀愁が漂うような、そんな口調だった。

なぜそう思うのかは分からないけれど、俺には山下さんが、明香の父親とされる人が、明香に会わせられないと思うほど、悪い人には思えなかった。

「……わからないけど、俺には悪い人には思えなかったけどな。電話で少し話しただけだけど……」

明香の小さな掌が、俺の左手を握りしめた。

「冬馬と一緒にいく……側に居て」

「分かってる……行こう」

俺は、明香の頭をくしゃっと撫でた。小さい頃から、明香が、俯きそうになる度に、いつもそうしてたから。

明香は、俺を見上げると、少しだけ笑った。

車のドアを開けて、明香の手を引いた時だった。

木製の扉が開いて、カーキ色のセーターに、ベージュのズボンを履いた、初老の男が、姿を現した。

男は、驚いたように目を見開くと、ただ、明香を見つめている。
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