オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「……冬馬」

俺は、不安げな明香の手を、強く握りしめて、男の前まで歩み寄った。

「初めまして。突然押しかけてすみません。
平山理恵子の息子の平山冬馬です。こっちが明香です」

「平山……明香です……」

明香が、か細い声で俯きがちに挨拶をした。

山下賢一(やましたけんいち)です……どうぞお入りください」

山下は、明香からようやく視線を逸らすと、
奥のリビングへと案内してくれた。

リビングには、沢山の絵画が置かれていて、どれも、雪景色と小さな女の子の絵ばかりが、描かれている。

「どうぞ」

山下は、木製テーブルと椅子を、掌で案内すると、キッチンへと向かっていく。

俺たちは、木製テーブルに隣同士で座ると、コートを脱いで、背もたれに掛けた。

「絵、すごいね……あと、お母さんが持ってたのとおんなじ」 

明香は、視線をキョロキョロさせながら、あちこちに立てかけられている絵画を、興味深そうに眺めている。

ふと、立てかけられている、描きかけのキャンバスだけ、後ろ姿の成人女性が描かれていた。

キッチンから、コーヒーの匂いをさせながら戻ってきた、山下が、俺の視線に気づいて、恥ずかしそうにカバーをかけた。

「遠いところから……有難う御座います」

「いえ、こちらこそ、突然お邪魔してすみません…それも明香まで一緒に……」

山下は少しの間、黙り込んだ。

「……まさか……会えると……思っておらず、……正直……驚きました……」

山下の目は、やや潤んでいるように見えたが、俯いたままの明香から、視線を外すと、自分自身を落ち着かせるように、コーヒーを、一口口に含んだ。
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