オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
先程、山下から、コトンと置かれた、目の前のコーヒーを見つめたまま、明香は黙っている。

「……冬馬君、立派に、なったね……最後に見たのは、君が4歳になる歳だったから」

俺の記憶になくても、会ったこと位はあるのだろうとは思っていたが、俺が4歳?ということは、山下が、明香と最後に会ったのは、3歳ということか。じゃあ、あの絵のモデルは、やっぱり、3歳の時の明香だ。

「……明香さん?と、名前でお呼びしても良いですか?」

黒髪に白髪混じりの頭を掻きながら、山下が、二重瞼の目尻を下げた。

明香は、山下の瞳をじっと見つめてから、小さく、はい、と答えた。

「山下さん……、明香の……父親だと、母の理恵子から伺ってますが、合っておりますでしょうか?」

「……あの、明香さんの婚約者の松原春樹さんから何も聞いてませんか?」

少し戸惑ったように、山下が尋ねなおした。

「春樹は、何も教えてくれなくて……だから、冬馬と此処にきたんです」

「私から聞いた話を、春樹さんが仰られないのなら、明香さんに申し上げて良いものか……」

「……教えてください……知りたいんです。
お父さんのことも、お母さんのことも」

明香が、隣に座ってる俺の掌を、ぎゅっと握りしめた。俺も握り返してやる。

「僕が……責任持ちますので」


俺と明香の言葉に、山下は、暫く黙って、視線揺らすと、立ち上がり、古い木製の縦長の書類棚から、一枚の写真を取り出すと、俺達の目の前に置いた。

「え?」

思わず、俺が、声を発するのと、明香が隣の俺を振り返るのが同時だった。
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