オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
私は、自販機でミネラルウォーター を買うと、小さく息を吐き出した。冬馬が乗って、待ってくれている社用車が見える。

ーーーーちゃんと言わなきゃいけない。全てを捨てると言ってくれた冬馬に。

コンコンと窓を叩くと、冬馬が、ちょうどスマホをスラックスに入れるところだった。私の姿を見て、すぐに助手席のロックが外される。

「待っててもらって、ごめんね」 

私は、昨日と同じグレーのワンピースに、冬馬のジャケットを羽織ったまま、乗り込んだ。

「いや、俺も春樹が心配だったから」

「うん、春樹と一緒にお医者様の話聞いてきた。いまの春樹の状態と、海外で手術が、必要なことも」

「そっか……春樹、大丈夫か?」

「……うん、治療にも前向きだし、ロスの病院の受け入れが決まり次第……一緒に、向こうに……行くつもり」

そこまでいって、私は俯いた。
冬馬が頭をくしゃっと撫でた。

「それで……いいから……明香が側に居ると、春樹も安心するからさ」

冬馬は何も言わない。言えないんだと思う。

こんな状況で、春樹を、置いて二人だけでなんて、お互いに心がもたない。

ーーーー春樹は、私にとっても、冬馬にとっても、大切な家族だから。

それに、春樹の病気のことがなかったとしても、私は冬馬を選ぶことはできなかっただろう。私は、小さな命を暖めるように、お腹に手を当てた。

冬馬は、黙ってアクセルを踏んだ。

「疲れただろ?寝てていいから……」
「大丈夫……」

なんて言えばいいんだろう。どう言葉にして、伝えたら、冬馬に心の中の全てを偽りなく吐き出せるんだろうか。
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