オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「……生まれる直前に……明香から聞い、たんだ……。俺のせいだ……。自分のことばっかで、明香の事に気づいてやれなかった」

春樹の涙は、初めて見たかもしれない。

春樹はこの四年、どんな思いで暮らしてたんだろうか。愛する明香が、我が子と引き換えで、居なくなってしまった事実を。

「……お前のせいじゃ…ない。……手紙に……お前をどうしても、お父さんに、……してやりたかったって……っ……一人にさせたくなかったって……」

「……分かってた、……明香がどんな気持ちで……俺の為に……それでも、俺は……」

トタトタトタトタと階段を駆け降りてくる足音がしてして、俺は振り返った。

「あ!とうま!」

肩までの黒髪に、大きな黒い瞳をにこりと細めると、俺の膝に乗っかった。

「……明香」 

思わず、そう呼んでいた。

「ちがうよ、せいかだよ」

俺はその小さな身体を、思わず抱きしめた。

「くるしいよー、とうま」

小さな手をパタパタさせながら、黒い大きな瞳が口を尖らせて、俺を見上げた。

「星香……大きくなったな……」

「明香がさ、残したスケッチブックに、お前が沢山書いてあってさ、星香に、いつも、見せてたんだ。な、星香」

春樹が、慌てて目元を拭うと、星香に微笑みかけた。

「うん、ママはね、とうまがだいすきだったんだって。ね、パパ」

星香が、歯を見せてニコッと笑えば、片側にだけ、エクボが見える。

「……そっくりだな……」

星香の小さな掌が、俺の口元をかろうじて摘む。

「とうま、ないたらダメだよ。ないたら、アヒルさん、するからね」

思わず俺は笑っていた。もう会えないと思った、明香が目の前にいるみたいで。
< 192 / 201 >

この作品をシェア

pagetop