オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
時計をみれば、もうすぐ17時だ。

企画課長室の窓からは、オレンジ色の夕陽が差し込んでいた。

そのあたたかい光が、デスクの上の俺達3人の写真を優しく照らしている。

冬は、日が沈むのが早い。あたたかく照らしてくれていたオレンジ色の光はすぐに、藍色に覆われて、夜の闇がやってくる。

愛おしく思う時間は、あっという間に過ぎ去るくせに、会えない狂おしい時間は、夜の闇の中のように長く、俺を孤独にさせる。

写真の中の明香の笑顔を、見つめながら、明香の血の味を、ふと思い出す。

ーーーーあの時、明香は俺に何て言おうとしてたんだろうか。そして、もしそれを聞いていたら、俺はどうしていただろう。触れるたびに、声を聞くたびに、心と身体が勝手に明香を求める。

今朝もそうだ。俺は、無意識に、芽衣を明香と間違えていた。

スマホからラインのメッセージを、告げる音が鳴る。芽衣からだ。俺が家を出る時、今日は体がだるいから、俺の部屋で、夜ご飯を作って待ってると話していた。

『明太子パスタと、ボロネーゼパスタどっちがいい?』

可愛らしい絵文字と一緒に、ネットで調べたんだろう。ご丁寧に完成予定のパスタの画像まで貼り付けてある。

『明太子』
『はーい。早く帰ってきてね』

芽衣は、思ってた以上に家庭的だ。ほとんどを俺の部屋で過ごし、洗濯、掃除、料理となんでもそつなくこなす。

形だけの婚約者なのに、時折、本当に結婚しているのかと錯覚しそうになる。

『帰る時連絡する』

芽衣からは、すぐに『了解』と書いたウサギのスタンプが送られてきた。

パソコン叩く指先を早めた俺に、内線が鳴った。

ーーーー内線番号をみて、思わず、受話器を取る手が固まった。

『002』番は、専務室からの内線だ。

俺は再度、その小さな液晶画面を確認してから、受話器を取った。

春樹からの内線なんて、初めてだった。
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