オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「はい」
『冬馬、話がある』

俺は、咄嗟に唇を噛み締めていた。
春樹の声色と、その一言で分かる。


ーーーー春樹は、昨日の俺と明香を、見て気づいたんだ。

俺達が、ひた隠しにしてきた想いを。春樹にだけはどうしても、言えなかった秘密を。 


「何処に行けばいい?」

『10分後屋上で』

「分かった」

受話器を置いて、俺は思わず明香に連絡しようかと思った。俺に話があると呼び出す位だ。昨日、明香は、春樹に問い詰められたりしていないだろうか?

大丈夫だっただろうか。俺はどうでもいい。明香に、春樹が、どんな話をしたのか想像した途端に、不安になる。

非常階段と書かれた扉を、押し開けて、無機質なコンクリの階段を、一つ上へと登る。

屋上に出る扉を開けると、春樹はすでに手すりに両腕を預けて、夜空を眺めていた。

俺は、ゆっくり春樹の背中に向かって歩き出した。こんな日が、一生こなければいい。そう思ってた。明香は春樹と幸せにならなければいけないから。俺は、明香を幸せにしてやれないから。

だからこそ、隠し通さなければならなかったのに。

春樹の隣に並んで、俺も手すりに両腕を預けた。

冬の夜風が、俺達の間を通り過ぎるたびに、互いの吐息が白くなって消えていく。

「……冬馬、何で呼んだか分かるよな?」

春樹はこちらを見ずに口を開いた。

「……明香には?」

春樹が、呆れたように笑った。 

「お前、自分がしたことわかってて、明香、心配してんのかよ」

「……明香は…悪くないから……」

「ふざけんなよっ!!」

春樹が、こんなふうに声を、荒げる姿を見たのは初めてだった。

春樹が、左手で俺の首元をネクタイごと締め上げる。キツく息が止まりそうなほどに。

いっそ止めてくれてかまわない。それだけのことを俺はしたのだから。

「冬馬っ!なんとか言えよ!!」

「……ごめん……」

春樹は、拳を振り上げると、俺の左頬を、思い切り殴りつけた。

殴られた衝撃で、冷たいコンクリの床に手をついた、俺の前にしゃがみこむと、春樹は、真っ直ぐに俺を、見つめた。

「いつから?いつから明香のこと……女として見てた!!」

答えられない俺を見ながら、春樹が、再度右拳を、振り上げた。

重く突き刺さる痛みと共に、口の中、一杯に血液が流れ出す。口内に広がる血の味を確かめるように飲み込みながら、明香の、血の味を、思い出している俺は、もう堕ちるところまで堕ちているのかもしれない。

「……明香もお前を、兄としてみてない」

春樹は、俺の胸元をグイと掴み上げ、目線を合わせた。

「でもな、……お前は間違った。仮にだ!明香にそう言われたとしても、お前は、最後まで突き放してやらなきゃダメだっただろ!!」

そう、明香は何にも悪くない。最後まで突き放してやるのが、兄貴として、最後にしてやれる精一杯の愛情だって、俺だって分かってた。

「……明香に触れたら……止まらなかった。
たった一度でいいから……明香を、自分のものにしたくなった……」

自分でも、声が震えてるのが分かった。そう、俺は明香にまで、一生消えない罪を、背負わせたのだから。

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