オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜

「妹だろっ!!冬馬!血の繋がった妹を、お前は抱いたんだぞ!!」

「……妹に見えたことなんて一度もなかった……一度きり、それで全部忘れるつもりだった……」

「お前な!自分がしたこと分かってるのかよっ!!お前は自分だけじゃない!明香まで堕としたってことを!!」

春樹の、絶望は計りきれない。俺は、春樹を裏切って、春樹の愛する明香を、道連れにしたのだから。

「……春樹……それでも、明香を幸せにしてやってくれよ……頼むから……お前にしか頼めない……」

「勝手なことばっかいうなよ!!」 

春樹の瞳は、怒りと哀しみに(あふ)れていた。
振り上げられた拳に、俺は目を瞑ったが、振り下ろされることはなかった。春樹が、俺の瞳から、(こぼ)れたものに気づいたから。

視線をおとせば、コンクリの床に小さい水玉模様が染み込んでいる。自分の瞳からこぼれたことに気づくのに少し時間がかかった。

「……冬馬、もうお前は弟じゃない……もう今後二度と明香には会うな!連絡もするな!」

「……分かった……」

春樹は、俺から乱暴に手を離すと、立ち上がった。

「春樹」

名を呼んだ俺を見下ろすと、春樹が小さく息を吐き出して、白い吐息が、ふわりと孤を描いた。

「……明香には、俺が気づいた事、言ってない。これからも……一生言わない……」

それだけ言うと春樹は、振り返らなかった。そして、ゆっくり屋上の扉は閉められた。

俺は、閉められた扉にを暫く眺めてから、コンクリの上に身体を投げ出して、夜空を見上げだ。

真冬の夜風が、容赦なく俺を吹き付けて、身体も心も氷みたいに冷たくなっていく。

見上げた夜空は、雲がなく藍色の空には星が瞬いて、オリオン座がぶら下がっている。

あの日、明香とみたオリオン座と同じで、三つ星が、並んで輝いている。

ーーーー真ん中が明香、右側が春樹、左側が、俺。

そんな、3人一緒の幸せにだった日々には二度と戻れない。俺が手を伸ばしてしまったから。

ずっと欲しかった、綺麗な真ん中の三つ星に……。

春樹に、言われた言葉を、繰り返し思い出す。

『最後まで、突き放してやらなきゃダメだっただろ』

そう、決して堕としてはいけない星を、俺は欲しがった。

その代償は、一生消えない罪の烙印だ。

血の繋がった兄と妹で愛し合った。たった一度だけと決めて。それなのに、俺の身体も心も明香を求めてやまない。一度知ってしまったからだろうか。

俺を見下ろしている、オリオン座は、あの日と何ら変わらない。変わっていくのは、変わってしまうのは俺達だけ……。俺はオリオン座の三つ星の真ん中に向かって手を翳した。


ーーーーオリオン座には神話がある。

オリオンとアルテミスの恋に、アルテミスの兄、アポロンは、心から祝福しなかった。
神話ではなぜ、兄、アポロンが、アルテミスの恋を祝福しなかったのか描かれてはいないが、俺には分かる。

それは、きっと、兄アポロンは、妹のアルテミスに叶わぬ恋をしていたから。

兄アポロンは、妹のアルテミスを心から愛してしまったから。

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