13歩よりも近い距離
 奈津は今日も今日とて岳の味方だ。

「まだオッケーしてあげてないのー?もうこのままゴールデンウィークに入っちゃうじゃんっ」

 教育熱心な親を持つ彼女の部屋には、高校に関するパンフレットが分厚く重ねられていた。それを私は一冊取って、膝上で捲る。

「……ね。まじで岳の奴、このままじゃ一生あそこだよ」
「いやいやいや、早くすずがオッケーして、学校行かせてあげなよ」
「だからそれじゃ、岳の粘り勝ちじゃんっ」

 ぶすっと頬を膨らませ、奈津を睨む。

「なんで岳が勝って、私が負けなきゃいけないのー」

 彼女の眉間に皺が寄る。

「勝ち負けの問題なの?これ」
「そうじゃないけど……」

 ぱらぱらと最後まであっという間に捲り終わって、山から別の一冊を取る。

「岳にはなんか、負けたくないっ」

 前髪に風を送っただけで、再び閉じられるパンフレット。奈津は「なにそれっ」と呆れていた。

「前からちょっと思ってたんだけどさ、すずって岳くんにだけ、やたらと対抗意識燃やしてない?」
「そんなことっ…」
「あるよ。だって今は恋愛の話をしてるのに、すずはそこにも勝敗を絡ませてくるじゃんっ。それって相手に失礼だよ?ちゃんと同じ目線で向き合いなよ」
「だーって……」

 岳は私より小さくて、私がいなきゃ何もできなくて、私が守ってたのに。

「あんな岳、知らないっ」
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