13歩よりも近い距離
 ゴールデンウィーク前に一度くらいは岳を家から引っ張り出したかったけれど、それは叶わず、とうとう明日から大型連休。

「とりあえず、顔見てから帰るかあ」

 連休前最後の放課後。私は岳の家に立ち寄った。
 

 岳の部屋へと入ると、ベッドフレームに背を預けて本を読んでいる彼が目に入る。

「うわ最高。ここクーラー効いてるじゃんっ。今日は夏みたいに外は暑いからねー」

 桜が散れば、たちまち緑が主役になり、そろそろ太陽が主役の季節。岳の半袖姿は、今年度初めて見た。

「あれ、岳……」

 私は彼の隣に座る。

「なんか、痩せた?」

 腕を握ってそう言うと、岳はその手を勢いよく振り払った。

「誰のせいだと思ってんだよっ。お前が俺の告白全っ然受けてくれねえから、運動不足の食欲不振で、どんどんほっそくなってくわっ」
「だめだよ、ちゃんと食べなきゃ」
「じゃあ俺と付き合えっ」
「付き合わないってばっ」

 キッと私に歯茎を見せて、飴を口に投げ込む岳。ガリッと即、噛み砕く。

「なに読んでたの?」

 岳の手元の本を覗いてそう聞いた。

「エロ本」
「うわ。ほんとだ、はだかんぼ」
「アホか、ちゃんと見ろよ。保健体育の教科書だろがっ」
「えーっ、なんでまた」
「そこらへんにあったから、暇つぶし」

 そんなもので?と束の間疑問を抱くが、岳がたまたま開いていた臓器のページを眺めてみれば、少し興味が湧いた。

「私たちの身体の中、ぐにゃぐにゃしたものばっか入ってるんだねっ」

 つり目を維持していた岳の顔も、私が彼の身体をくすぐるように撫でれば(ほころ)んだ。
< 11 / 36 >

この作品をシェア

pagetop